第239話
小学校に入ったかどうか、という外見の子供が座らせられていた。嘉明の実子だとなんとなく理解できる黄色っぽい髪で、男か女かは判別し辛い年齢ながら事前情報では男。金糸を装飾された紫の着物に着せられ、紫宸殿中央でちょこんと座っている。乗り込んでいった瞬間、彼の周囲を取り囲んでいた大人達は騒然となったが、彼だけはまったく動じず歩み寄ってくる嘉明をじっと見つめ
「よう」
「父上?帰ってきていたのか?”えいえんにけがれないしょじょをもとめていすらむのてんごくにいった”と聞いていたぞ」
「おい誰だコイツにそんな事教えた奴!!こうなっても知らんぞ!!」
なんて、自分を指差し叫ぶ嘉明に追従していた円花が溜息、後はお偉方に任せるとばかり外の警戒に移る。宮内省と中務省の人間がお叱りを受ける中、慌ててやってきた大臣には八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)が投げられる。「本物だろ?」「いえー…実物を見た事が無いものですから……」との会話をしたのち、真偽の判別が可能な人間が来るまで待機するため嘉明はその場で座った。一ヶ月前まで自分が座っていた上座にいる息子を見て、ふむ、と声を漏らす。
「どうだ知明(かずあき)、そこの居心地は」
「退屈だな」
「そりゃ結構」
外観とは裏腹に口調は大人顔負けのそれである。かなりの違和感を覚えるがまぁ今に始まった事ではない、スズの時もそうだった。その後もいくらか会話をし、一応葛葉の居場所を聞いて見るも「最近は姿を見せない」との返答。やっている間に呪術師らしき人物が到着したため、勾玉に付け加え預かってきた天叢雲(あまのむらくも)も突き出してやる。
「ほら鑑定しろ」
「本物!本物です!すみませんしまって下さい!これ以上近付けない!」
「んなわきゃねえだろ……」
出てきた途端に仰け反ってしまった神官チックな服装の男が言うので勾玉は消し、剣は『じゃあ』とか言いつつ自力浮遊、スズの元へ戻ろうとする。用が済んだ以上引き止める理由は無いし、フィンガーチャンネル付きな柄の形状から言って十代女性にしか扱えないものだ。コノハナサクヤの捜索、打倒を目的とする以上、直ちに戦える状態へ戻りたいのは当然ではあるが、それにしたって急ぎすぎじゃないかと。
『何を言ってるんだい、中年男性と女の子だよ?どっちの懐に居たいかなんて決まってる』
「…………反論できんな」
さすが地上に降りたその日に嫁さんゲットしただけの事はある、日本神話屈指の女好きだ、オオクニヌシには敵わないが。
ただ言っておくと、そのオオクニヌシもギリシャの皆々様と並べれば大したことなかったりする。
「ん?」
そうして飛び去っていくニニギを見送った後、入れ替わりで嫌な気配が近付いてきた。紫宸殿前、桜と橘の木の間に立つ円花も同じく察し、握る刀を中段の位置へ。
「手頃な所に隠れてろ、皆殺しにする気だ」
「なっ何故!指示に従っただけだ!私は悪くない!」
「そういうこと言ってるからこうなんだよまったく…いいから隠れろ!」
先日の戦闘で崩壊していた清涼殿の方向へ邪魔者全員を逃がし、改めて外を見た時には既に式神狐が1体、円花に斬り伏せられていた。出現元は恐らく陰陽寮、葛葉は普段そこにいる。
「南だ!慎重に行くぞ、全方位を警戒しろ!知明!お前はここに」
「父上」
「なんだ!?」
紫宸殿から出て行こうとする嘉明の服をつまみ、知明は振り返らせる。
「あまりあれを苦しめないでくれ、皆がそうするからああなったのだ」
やはり歳に似合わない口調と、やや哀しげな表情でいう彼に面食らいしばし沈黙。持ち直し、頭を軽く叩く。
「わかったよ」
その間に狐3体の首が飛ぶ、続いてやってきた赤鬼には下段へ持ち替え、振り下ろされる金棒に刃を合わせた。接触した瞬間、グラインダーを押し当てたかの如く音と火花が噴き出し、時間をかけて金棒を切断、続けて鬼をも消滅させる。
「急いでくれ!一箇所を守り続けるのは苦手なんだ!」
「おう、よっしゃ行くぞ!」
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