第236話

気が付いたら劣勢だった、という表現が正しいだろうか。戦闘情勢的にではなく、数の上で。

エレベーターが予定に無い動きをしている、との報を受けてまず技術者が向かっていった、そして消息を絶った。これはただのトラブルではないと判断した警察官が次に向かうも同じく連絡を寄越さなくなり、なんだなんだと軍隊が動員されてみれば、異常動作したエレベーター籠の前で、緑の着物を着た狐耳の少女が技術者と警察官を従えていた。時間が経てば経つほど裏切り者は増えていく、代わりにこちらの頭数は減っていく。いくら叱咤してもそれは止まらず、いよいよ民間人が人の壁を作り始めた段階で退却を強いられた。そのような状況下で上から出された命令は何かといえば”構わん撃て”だ、おかげで離反が加速した。


「不可能です!」


「不可能なことがあるか!銃口を向けて引き金を引くだけだぞ!」


「それが不可能だというのです!」


あくまで命令を実行しようとする自分に副隊長は食ってかかる。大内裏が目的地だろう彼女がここに寄り道した理由は明白だ、上層と地表を切り離して連携できなくする為にある。


「ここの住民だけは傷付けないという条件で私は軍に入りました!それが守られないなら従う気はありません!」


「貴様も離反と見なすぞ!」


「では今すぐこの頭を撃ち抜けばいいでしょう!」


思わず拳銃に手をかけたが言い争いはそこまでだ、追い打ちが発生した。ズン、と背後で地鳴りがして、そちらを見れば暗緑色の装甲に覆われた巨大な飛竜が、2人目掛けて急加速を始める所だった。


「ぐぅ…!!」


咄嗟に横へ飛ぶ、巨体が通り過ぎた事による風に転がされる。地面に叩きつけられている間に銃撃戦も再開して、残り少なかった味方はあっと言う間にゼロとなった。全員倒されたのかそれとも裏切ったのか、ともかく上体を起こした頃には戦闘は終結しており、同時に、乱れ刃の太刀が顔の真横に突き立てられた。


「は……」


褐色の髪と狐耳を持つ少女だ、肩と裾に大きなスリットの入る緑の着物を端の余った黄色の帯で締め、尻餅ついた体勢をする自分の股の間を下駄で踏みつけ、左手の太刀をゆっくりと持ち上げる。

彼女は何も言わない、無言のまま引いた太刀をカチリと鳴らし、横を抜けて歩き去っていく。


「…………」


もはや止める気も失せた。

固まったまま、彼女に続く飛竜や人間を見送った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る