第214話

世界平和のためにできる事ですか?家に帰って、家族を愛してあげてください。

-マザー・テレサ




















ライン3ポイント4、谷の下、残り6km

独立分隊”スリーシックス”

カ・”メル”・リンシン




まず空爆から始まった。

対地ミサイル、精密誘導爆弾、ロケット弾、キャニスター弾、対地攻撃可能なすべての航空兵器が10×5km程度しかない戦域にぶち込まれ、更にどういう言い訳でそんなものまで呼び寄せたのかエンジンが4つもある大型爆撃機が群れをなしてやってきて中枢部への濃密な絨毯爆撃を敢行、駄目押しとばかりに機銃掃射が行われた後、今度は山の上に設置された榴弾砲からの砲撃が叩き込まれる。それは今も継続中で、断続的に響く爆音を耳で聞き、手当たり次第に装甲戦闘車両を撃破していくヘリコプター、及び急いで補給を終わらせた攻撃機の空爆再開を目で見ながら、メルは天井の穴から上半身を出し、ハンヴィー搭載のガトリングガンを両手で掴む。


「前方に敵防御陣地!でも止まらないで突っ切りますよ!すれ違いざまに一撃加えろ!」


他の車両と歩調を合わせつつも可能な限り高速で前進し続けるそれの運転席でシオンは叫ぶ。ガトリングのスピンアップを始めたあたりでハンドルを切り、雪原迷彩を施された、アメリカ軍エイブラムス戦車の背後へ身を隠した。途端に銃弾を受けて火花を散らすそれが走行しながら砲塔を旋回させ、まず榴弾を1射、続いて同軸の対人レーザーから連射を見舞う。敵からの射撃が止んだ後、背後から抜け出たハンヴィーの上部でメルがトリガーボタンを押せば、煙に覆われる機関銃陣地へ毎秒50発の追い打ちを見舞う。


「うわやっば!?」


真横を通り抜けた瞬間、榴弾で吹っ飛んだと思っていた機関銃が無事だったのを見るや頭を引っ込め、同時にハンヴィーは急加速、エイブラムスの前へ回る。


「10式なら絶対外さないのに!」


「あんなヤンデレと比べないでくださいよ!行進間射撃なんてこんなもんでしょ!」


僅かに間に合わず、ガガガン!と鳴った後部座席でフェイが叫ぶ。ハンヴィーに損害は無い、重機関銃ならアウトだったが、ボディがへこんだ程度でその場は乗り切った。改めて天井の穴から顔を出し、周囲の状況を確認しておく。


「それもこれもピーナッツオートミールが美味くも不味くも面白くもないなんかのっぺりした味だったから…!」


「それ関係なくない!?ていうか何度も言うけど私は止めたからねぇ!?」


同乗しているのはシオンとフェイの他に助手席のフェルト、残りのヒナとスズは後方50mで別のエイブラムスにひっつくストライカーCV指揮通信車に便乗している。合計して戦車2輌ストライカー1輌ハンヴィー1台、進撃再開した時はこの4車両の前に他の部隊がちゃんといたのだが、ここまでの道程でどんどんどんどんすり減って居なくなってしまったため、図らずも先頭を走る事になってしまったのだ。このまま走り続ければ2km先で谷の上を進撃する部隊と合流できる、後続が追いついてくるのを待ってもいいが、立ち止まっている時間に恐怖を覚えたのと、チェブラシカが釘付けにしていた敵機甲部隊の一部がこちらに向かっているとの報を受け、だったら一気に突っ切ってしまおうと、割と軽いノリでこんなことが始まったのである。


「わっと…!」


後方から接近してきた攻撃ヘリコプターが一行の真上を飛び抜けていく。メインローターの風をメルに叩きつけ、左右のスタブウイングから交互に2発ずつロケット弾を発射し、前方で待ち構えていたであろう敵部隊をあらかじめ排除した。反響付きの爆音をかき消すように機銃掃射も交えて更に先の敵まで、

と、言う所で、谷の上からミサイルが発射された。


「まず…落ちるよアレ!?」


対空兵器は存在しない、というのが事前情報であった。アメリカ軍の徹底的な防空網制圧攻撃を最初に受け、長引く戦争の中で携行式対空ミサイルの在庫も払底している筈で、実際ここに至るまで、撃墜されたヘリや攻撃機はいない。まさか1基も無いなんてこたなかろうが、もし持っていたなら初戦の爆撃を受けた際に使っているだろうし、油断してしまうのも道理といえる。

まぁ実際問題、撃ってきたのは対戦車ミサイルなのだが。


「掴まれぇぇ!!」


ヘリコプターを破壊するには不釣り合いな火力を持つそれが突き刺さった瞬間、機体はバラバラに砕け散り、運転席のシオンはハンドルを右へ急に傾ける。雪を撒き散らしてスリップを始めたハンヴィーはしかし、絶妙なアクセルワークで体勢を安定させられ、横滑り状態で右の斜面を駆け上がり出した。当然減速していくが、ヘリコプターの残骸が落着し、何もしなかった場合のハンヴィーの予想位置に大きな抉れ傷が残るまでは耐え、左にぶん回したハンドルによって反転、登った斜面を駆け下り、元のルートへの帰還を果たす。


「よぉっしゃぁぁぁぁ!!国際B級ナメんなよぉぉ!!」


続くエイブラムスは残骸を蹴飛ばす事で突破し、無事にハンヴィーを追い抜いて先行し始めた。すぐに榴弾を発砲、ヘリコプターがやる筈だった陣地撃破を肩代わりする。


「いやしかしまずいぞ!?少佐に連絡してください!」


「今やる!スリーシックスからライアン・リードへ!航空支援を失った!友軍との合流予想地点までは残り1キロメートル!指示が欲しい!繰り返す!」

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