オペレーション・ソーイング・オブ・カーテン

第205話

たとえ世界は滅ぶとも正義はとげよ。

ーフェルディナント一世




















中国、重慶付近、残り30km

独立分隊”スリーシックス”

”スズ”




ありったけの爆薬をもって隠れ家は破壊された、もう人の目に触れる事は無いだろう。


地上に出て、銃弾飛び交う中事前の打ち合わせ通りストライカーICV装甲兵員輸送車に便乗した後、山脈を越えてきた2〜3個の歩兵中隊へ応戦しながら全戦力は隠れ家を離れる。やはりというか敵の士気は低く、ムーンライトと、ロシア軍自走対空機関砲による水平射撃を受けても追いすがろうとする者はいなかった。いや、この火力を歩兵が正面から喰らったら士気が高かろうと低かろうとあまり関係ないのだが。

既に交戦が開始されたとの報を受け、その57mm機関砲+短距離ミサイル搭載の自走対空砲に付け加え、マーシャから通常戦車2輌が派遣されてきた。これより先、少なくとも最初の防衛線とぶつかるまではこの米露連合部隊が重点的に攻撃を受けるだろうと、あの変態少将は読んだらしく、実際にも山越えの最中に2回、ライアンの元駐屯地を過ぎたあたりで1回、散発的な歩兵の待ち伏せ攻撃と、迫撃砲による砲撃を受けている。

いやそこまではいいんだ、そこまでは。元よりアサルトギア1機、ストライカー装甲車の歩兵戦闘車型1輌、火力支援型1輌、兵員輸送型2輌、自走対空砲1輌と歩兵の乗る高機動車両複数があり、それに付け加え戦車までいるのだから、いかに隠れて待ち伏せしようと顔を出してしまえば最後、12.7mmやら25mmやらの掃射によって蹴散らされ、迫撃砲の発射点には爆撃機やヘリコプターから攻撃が加えられた。発砲音と着弾音と爆音の三重奏が鳴り響く中、スリーシックスの歩兵5名がやったことといえば普段通りの会話をしながら車内で待機し続けたのみ。支援無しの単独行動が主だった一行はそれだけでクリスマス気分になって、ヘイヘーイ!などと言いながら敵最前線との衝突を迎える。

『アァールピィィジィィィィーッ!!』とかいう声が通信機から飛んできたのはその直後である。そっから今現在まではちょっと記憶が無いものの、感覚が戻った時にはスズの顔の上にはフェルトのぺったんこが乗っており、「かたい」と言うと「失礼な」と返ってくる。


「どうだった?」


「義妹以下です」


「うぅーんこのタイミングで発覚する複雑な家庭事情」


ひっくり返ったストライカー車内ではシオンとヒナが後部ハッチと格闘中、運転席と助手席にいた2人の米兵はシートベルトを外すのに苦労しており、フェルトがスズの上から退いたのち、最初にメルが聞いてきたのはそれだった。


「まだライン1じゃねぇーかよ!!」


乗ってる車両が吹っ飛ばされれば話は別とは確かに言ったが、手動ドアを押し開けるシオンの悪態にはひとまず同意。右上腕の鞘から引き抜いたナイフで運転手のシートベルトを切って、支えを失った彼が頭から落ちるのを見てあわあわやり、とりあえず頭さすって、副運転手はもっと慎重に。「ああぁ…ヘルメットあるから大丈夫、ありがとう」と言われたので笑って返し、皆の元へ戻れば、送られたのは「さすが天然魔性」との謎の言葉。


「それで何が起きたの?」


「ロケットランチャーの攻撃喰らって転がったんすよ。何だってんだ私らだけにそんなもんぶち込んできやがって」


『本当、どうせ吹っ飛ぶなら対戦車地雷の方が高く打ち上がるのに』


「一体何を残念がってんだこのアホパイロットは!」


後部ハッチ中央、開け放たれたドアの向こうにはムーンライトの脚が見えている。音を聞く限り25mmチェーンガンのみを使って応戦を行なっているようで、間も無く『クリア』との声が上がり、ライフルを構えて警戒しながら1人ずつ車外へ出ていく。

おそらく氷の下にはアスファルトが埋まっているだろう、左右に森林が広がる幹線道路の右端にてストライカーは180度の横転をしていた。敵の対戦車ロケット弾はこの手の車両を一撃で仕留める威力を持っているが、いかんせん無誘導、8個ある車輪のうち左側中央に命中したため、HEAT弾はタイヤとホイールをめちゃくちゃにしたのみで車体には大した傷を付けず、代わりに爆圧をもってひっくり返したのだ。既に敵部隊は撃退されており、他の車両はすべてが健在。しかし車列は移動を停止してしまい、高機動車両から次々とロシア兵が展開していく。


「この先まだまだ襲ってくるよねぇコレ、戦車の増援受けたのは正解だったかなぁ」


「なんだかんだいって有能じゃない?あの将軍、変態だけど」


「やる事なす事ツボにハマるからね、変態だけど」


一息ついて、フェルトとヒナとメルがぽつぽつ話し出した所で確認しよう。現在地はライン1と呼ばれる事になった敵防衛線内部、目的地まではまだ30kmほどあり、ここから歩くのは勘弁願いたい。同行する部隊の他にも味方は前にも後ろにもまだたくさんいて、空ではヘリコプターが地上を睨んでいる。それでも簡単な偽装で監視の目を逃れられるのが歩兵というものであり、ライフルや対空ミサイル、対戦車ロケットなど両手に持つ武器を変えるだけであらゆる状況に対応できるのも歩兵の歩兵たるゆえんであり、更に、わざわざ爆撃機やヘリコプター、機甲部隊を派遣してまで排除するほどの価値がないのも歩兵である。このまま進み続ければ同じ目に遭うのは火を見るよりも明らかなため、敵の待ち伏せ攻撃に対して何らかの対策をしなければならない。どうすればいいかは簡単だ、目には目を、歩兵には歩兵を。


「”何もするな”っつー命令守りたい人ー」


「………………」


「ですよね、おけ、割り当て貰ってくる。はぁ……」


できれば命令遵守でいきたかったらしい、ロシア人部隊長の元へ溜息つきながらシオンは向かっていって、その間「妹さんってどんな人?」「すぐ泣く、話しかけるだけで泣く」との会話をし、その後、現在の年齢と現在のサイズを比較して、やはり日依(ひより)は抜群のぺたん狐だとの結論に至る。お土産として最新式のマッサージ方法を教わっていたらシオンは帰ってきて、スズとフェルトをアルファチーム、自身とメルをブラボーチーム、ヒナを高機動車両からの全体監視に割り当てる。フェイに少しばかり先行するよう伝えて、アルファには左を進むよう指示。

二手に分かれて、ロシア兵と共に車両を護衛。少なくとも先頭部隊がライン1を突破するまではそれを続ける事にする。


「ああ不安だ…こんな序盤から出ないといけないとは……」


「いやいや、大丈夫だって、このガチンコSFからファンタジーな通常状態に無事戻れるのかって心配しかしてないよ作者は」


「お前は何を言ってるんだ……」

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