ワールドリザレクション

第175話

『ちょっといいかな、協力して欲しい事があるんだけど』


西洋軍が来る前に拠点を変えるというから移動に備えて自力で浮き上がりふよふよしていた所「うっわキモ!」とか言われたので荷車に収まって意気消沈していたニニギである。飛行場まで到着し、都会じゃ調達できそうにない物資をありったけ積み込むゴールデンハインド(応急修理状態)の前で作業完了を待っている間、ひとまず落ち着いたようなので考えていた事を口にしてみたのだ。


「あ、リコに朝ごはんやってない」


「致命的です」


が、途端に思い当たってしまったスズが呟くや落ち着きは失われてしまう。元気が無いと思ったらガス欠かとアリシアがケージを開けて、急遽食料の供出をその場の全員に要請するも小毬のリュックから小麦粉が出てきたのみ。犬は肉食、小麦は植物、かつての日本において飼い犬に与える餌なんてものは白米に味噌汁ぶっかけおかずの余りを添えた、要は残飯であり、実際肉食といえど植物の消化は一応可能である。しかしまぁあれを食べさせるとなると練ってこねて踏んで寝かせて切って茹でねばならないし、そもアリシアが許可を出しそうに無い。


「かげろー、魚ない魚ー?」


「本部の食堂にあるんじゃねーのー?」


『あの聞いて、聞いて……』


空気の振動を介さず直接脳とか魂に話しかけているのだが、まるで聞こえてないとばかりにニニギの声は無視され、アリシアが蜉蝣と共に防衛隊本部へ向け小走りしていく。他には日依(ひより)と小毬(こまり)、それから見送りに来た七海(ななみ)が目に見える範囲にはいるが、現状小毬は七海に撫でくりまわされ困惑しており、一番聞いて欲しかった日依はなんか、自らの過去(の性格)が公となったショックから立ち直りきれていない。スズの起床から向こう1日からかわれ続けていたので気持ちはわかる、でも未だに放心してるってのはどうなのか。


「ん……ねえなんか言ってるけどー?」


女神か、唯一反応してくれたスズに対してまず思う。それ以上人は集まらず、日依はあの有様、他は心許ない。彼女1人だけというのもそれで問題がありそうではあるが仕方なし、ちょっとこっち来てと、ジャガイモか何かの詰まった木箱の上に置かれる翡翠玉の前にスズを立たせる。


「なに?」


『とりあえず…自己紹介がまだだったね、僕はニニギ、君の遠い先祖に当たる者で』


「ニニギ……」


『うん、神なんだけどね、一応』


「……ああ!日本神話史上最大最悪の女の敵!」


『すいませんそれほんとどうにかなりませんかね!!誤訳か何かだと思うんですけど!!』


思い当たってくれたスズに対して咄嗟に叫ぶ。確かにそんな話もあった、解釈に違いこそあれ事実である。ニニギとしては「いや別にそこまでしなくても……」くらいの感じだったのだが、いやだって婚姻した次の日に子供産むなんて誰が考えるのか。


『ま、まぁ…まぁいいや、それで協力して欲しいんだけど、具体的には”物を掴む手を貸して欲しい”という点で。見ての通り、そういう物理的な行為には手も足も出ないからね』


「うん、この玉ころじゃあねえ。そんくらいならいくらでもするけど、それで何を掴めばいいのさ?」


『今から説明する、とりあえず僕に触れてくれないかな、指でつつくだけでいい』


こう?と、言いながら左手人差し指を近付けてくるスズを捉えながら色々と起動、色々と設定を行い、間違っても衝撃波など撒き散らさないよう極力抑えながらも轟々と色々放出して、結果、少し遠い位置でずっと体育座りしていた日依がピクリと反応、勢いよく立ち上がる。


「おい待て迂闊に触るな!!飛ばされるぞ!!」


「えっ」


しかしもう遅い、翡翠の表面に触れたスズだけを正確に引っ張り上げ、格納し、距離に応じた燃料を与え、前回とは違い、今回は自分ごと。


「…………ああ…飛んでっちゃったよ……」


この時間軸から弾き飛ばした。

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