第107話
「なんだなんだなんだぁぁぃ!!」
緊急事態故、頑張れば這い抜けられる穴を持つ瓦礫を爆破して開口部を広げた所、直径50mほどで緑のまだら模様を持つヘビの胴体が眼前に落下、うっひぃ!なんて言う日依が洞窟内に突っ込んできた砂塵に巻き込まれる。次に姿を現した時には若干茶色くなってはいたものの、前開きの上衣とプリーツスカート、全身を覆うマント姿に早変わりしており、尻尾9本を従えて完全に坑道から脱した。追ってアリシアも太陽光の下に出、すぐ左へ方向転換、ウワバミの尻尾の先を流し見ながら高さ2mも無い砂丘の影に転がり込んで身を隠す。先に到着していた日依は頭を振って砂を落とし、ひとまず耳だけは隠そうとフードを頭に。そこでまた地面が揺れる。うつ伏せのまま砂丘の頂点から顔を出して様子を伺う、轟音と、舞い上がる砂粒同士の衝突音、ライフルの発砲音に紛れて人間2人分の絶叫がアリシアの耳に届いた。
「傷の具合は?」
「動かさなきゃいいんだろ?よゆーよゆー」
天を衝く大きさとは正にこういう事を言う、現在地から尻尾の先まで直線距離約600m、兵士をすり潰してゆっくり立ち上がる、実際はかなりの高速なのだがいかんせん巨大過ぎてそう見える頭部までは300m、まっすぐ伸ばして正確に測れば1kmに届くだろう。外観としてはまったく普通のヘビだ、ただ視界に収まり切らないくらいでかいというだけで。
「これが本来のウワバミなのですか?」
「いくらなんでもでかすぎる、途方もなくでかいとは言っても目撃情報のほとんどは普通のヘビを見た時に気が動転して実際のサイズを測り損ねただけ、きっちり記録の残ってる菅谷(すがや)のウワバミでも16メートルちょっと、神代の怪物に目を向けたってキロメートルに届くものなんぞ赤エイくらいのもんだ。これがさっきのダメヘビだとして、何らかの外的要因でブーストかけない限りあんな生まれて数年のへなちょこが」
何らかの外的要因、と聞いてまず思い浮かぶのはやはり例の宝石である。今まで何度も合間見え、その度に起こして欲しくもない奇跡を起こし、天変地異すら操ってきたあれならば数万年分の成長期間を省略する事も可能のような気もするが。そう思って日依を見ると同じ事を考えたらしく、頷いて、砂丘の斜面に沿って体を這わせた体勢から膝を立て起き上がりつつ巨体を仰ぎ見る。
「問題はそこだ、もし使われたのがアレならこの事態は十分説明できる。しかしながら今この場、少なくともすぐ近くには葛葉(ババア)と敵対してるかもしれない”あの石の専門家”がいる。あいつならスズみたく直接触らないと壊せないなんてことすらない、出した瞬間ぶっ壊されるかもしれないもんを出そうとはしないだろう。まぁ?他に思い当たる節なんぞ無い訳だけどな?」
ウワバミの一撃で舞い上がった砂塵が収まった頃、生き残った兵士達がライフル射撃を再開、加えて遠方から高射砲の砲撃が始まった。口径12cmのそれは対人用途なら野戦重砲クラス、装甲車両をひっくり返せる威力である。そんなものがウワバミの各部位でひっきりなしに爆発し出したが、やっぱり相手がでかすぎてせいぜい40mmグレネード弾くらいにしか見えないというか、簡単に説明してしまえばゴジラvs自衛隊そのままの光景。
「ではどうしましょう、元のダメヘビに戻しますか?」
「そうだなぁ、使うだけ使っといて用が済んだら殺しておしまいってのも気が引けるし…いやどうやりゃ殺せるかもわからんが、とにかく重要なのは、これに伊和の宝石が使われているかどうか。アレを受けた者の絶対的な末路として、”腐っちまったら元には戻らん”、こればかりはどうしようもないんだ」
案の定まったくダメージを与えられず、ウワバミの注意を引いた以外に効果は無かった。12cm高射砲の火力で太刀打ちできないならと日依もお手上げ、対抗し得る火力といえば西の軍港で休息している戦艦群の持つ35.6cmやら41cmやらの主砲であるが、まさしく寝耳に水かけられた状態である上に距離10km以上、この巨体とてあそこから狙撃するのは困難を伴う。
「とにかく人を逃しましょう、艦砲射撃が降ってくる前に」
「んーまぁ、それくらいしかやる事無いし、スズも上がってこないしな。アリシア、お前は小毬を探して……お?」
と、ひとまずの行動方針を策定、倒すのではなく時間を稼ぐと決めた直後。
高射砲陣地へ向かうウワバミの進路上、先程より大規模な砂塵が突如として巻き上がり。
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