心の宝石店~番外編短編集~

星河夜空

第1話 さよさらしよっか

「え?」


サナミは、驚愕に目を見開いた


「サナミ様!?」


恐怖を含み、引き攣ったミカセの声が響く


あちこちから悲鳴が上がり

その騒がしさはどんどん広がった


「はっ油断したな」


強盗の1人が、拳銃を片手に嘲笑う


ミカセとサナミによって拘束されていた5人の男が

よくやったと男を褒めた


左下の腹部からはどくどくと鮮血が溢れ出している


サナミがへたり込んだ時

ようやく騎士たちが人ごみの中から出てきた


「な!?」


騎士たちは状況をみるや、驚愕の声を上げた


「サナミ!?

 一体何が・・・」


リヒトが、サナミへ駆け寄り

身体を支える


「あはは、油断したわぁ・・・

 まさか、拳銃隠し持ってる・・・とか

 はん、そくだろが・・・ガホッ」


口から赤い液体が飛び散った


店の床は、ゆっくりと赤く染められている


「もう良い!

 喋るな!!

 今から王城にある病院に転移するからっ」


転移の能力を持つリヒトがミカセを呼ぶ


サナミを横抱きにして抱える


「良いか、絶対に手ぇ離すなよ!!」


「はい!!」


サナミの手を強く握りしめるミカセ


一瞬の浮遊感の後に

景色が一転した


「リヒト、説明は終わってるから

 早くサナミを!!」


「あぁ、頼んだぞ」


転移した病室にいたのはセイで

既に手術の準備は済んでいると言った


「ちょっと・・・・・・待って・・・ゲホッ」


「馬鹿言わないで下さい!!」


涙目でミカセは怒鳴った


サナミはふっと笑い


「自分の終わり位・・・分かるよ

 ゲホッゲホッ・・・ハァ、ハァ

 こんだけ血、出したんだからさ

 もう間に合わないって」


掠れた声で、笑った


「現に、もう、声

 聞こえ難いし、ボヤボヤするし・・・

 ねぇ、ミカセ?」


「な、んです・・・か?」


サナミは、切なげに目を細めて言った


「ごめんね」


それを聞いたミカセは、咳を切った様に叫んだ


「何で謝罪なんですか!

 私は、感謝の言葉しか聞きたくありません!

 だから、さっさと治ってきてくださいよ!

 まだ私が知らないサナミ様を教えて下さいよ!

 また笑いかけて下さいよ!

 何で・・・なんで謝るんですか

 さよならなんて・・・絶対嫌ですからね」


両手でサナミの手を握り締め、ボロボロと涙を流す


サナミは最後の力で、ミカセの手を両手で包み


ふわりと柔らかい笑顔を見せ、目を閉じた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る