「僕はロボット」

「自分のことをロボットだと思って。」

僕の最初の介護ミッションは、寝たきりの患者に水を届けるというものだった。何が引き金で笑いの発作が始まるか分からない草という病は、近付くことさえ難しく、ラジコン操作で食事を運ぶのが一般的らしい。僕はその引き金になる可能性が最も少ない人物として、この実験の第一号として選ばれた。僕の一挙一動は遠隔操作のカメラで監視され、左耳のイヤホンからは、える先生の指示が逐一聴こえてくる。

「患者とはなるべく目を合わせないでね。」

「もし話しかけられても反応しちゃダメだよ。」

「ねんどくんは間違いなく面白くないんだから、もっと自信を持って。」

「大丈夫。何かあっても後ろにお医者さんが控えてるから。」

「そう。そこの扉を開けて。」

電子ロックを解除して二重扉を抜けると、そこは雪国のように真っ白な部屋だった。

「ベッドの傍にテーブルがあるでしょ?そこに水を置いて。」

プライバシーの関係で詳しい情報は聞かされてないが、この部屋に住む患者は僕と同じ14才の女子中学生らしい。幸い就寝中らしく、こんもりと膨らんだシーツの中から、微かな寝息が聴こえてくる。僕はそっと近付きテーブルにコップを置こうとした時、カタカタカタカタ!と音が鳴った。緊張で手が震えていたのだ。

「あわわ、あわわ!」

その音に動揺して余計に手が震え、水が数滴零れた。

「ん?ねんどくん?大丈夫?」

過度な緊張からパニック状態になるのは、今までに何度も経験した僕の癖のようなものだ。数分で落ち着いて元に戻る。でも目の前にいるのは完治の目処が立たず、致死率が非常に高い患者だ。僕は目を閉じ深呼吸して心の中で呪文を唱える。

僕はロボット…

僕はロボット…

僕はロボット…

「あ、だ、大丈夫です。水、置きました。」

「オッケー。ねんどくんナイスー♪」

一緒にパーティーを組んだ仲間のボイスチャットのように、える先生は僕を褒めてくれた。僕は足音を立てずそろりそろりと閉鎖空間から抜け出した。二重扉の裏で待機していた麻酔医が「グッジョブ」の合図をしてくれた。

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