第38話 時間を巻き戻す悪魔 その1
100年後
アーシェはカルデラ城で100年前の記録を調べた。
その後父親がどうなったか、それを知らなければならない。
公式の記録には
ヘルツ=グラフェンはアーシェが失踪した後、自殺したと記されていた。
カルデラの国に伝わる有名なおとぎ話にもそう語られていた。
アーシェは絶望した。
そして、自分の能力が時間を巻き戻すことであることに気が付いた。
カルデラ城の時間を100年前に巻き戻せば・・・父を救うことができる。
時間の巻き戻しは消費魔力が多く、今のままの蓄積魔力では、100年前に戻ることは到底できなかった。
魔力が足りない・・・
彼女はカルデラの宝物庫から白い剣を盗み出し、他の12匹の悪魔から魔力を奪うことにした。
しかし、悪魔である彼女には、悪魔退治の剣である白い剣は、使うことができなかった。
この剣は、”人間”の心臓に魔力を蓄積させる道具だから・・・
アーシェは廃教会で呆然としていたキロに悪魔退治を依頼した。
自分のことを”天使”だと偽って、
今、12匹の悪魔の魔力がキロの心臓に貯められている。
これだけの魔力があれば、より広い範囲に、より長い時間を巻き戻すことが可能だ。
ただし、今まで経過した時間、歴史そのものを無に帰す。
その土地に生きた人間をその存在ごと抹消するようなものだ。
アーシェ自身、それがどんなに恐ろしく残酷なことか理解していた。
それでも彼女は止まらない。
アーシェは悪魔、己の欲望のために狂う不死身の存在なのだから・・・
$$$$
どんよりと曇り空だった。風は全くない。このような天気のことを嵐の前の静けさというのだろうか。
アーシェは、背負ったキロを運んでカルデラ城と城下町の郊外までやってきた。
そして、ゆっくりとキロを木の下に寝かせた。
使い魔「ご主人様、白い剣をもって来ました。」
アーシェ「ご苦労様」
アーシェ「・・・さて」
(魔女モールスは『助かるには心臓を取り出して直接魔力を吸い出すしかない』と言っていた。)
キロは目を覚まさない。
魔力が心臓を圧迫してもうキロの命は限界ギリギリなのだろう。
アーシェ「今・・・楽にしてあげる。」
使い魔「ご、ご主人?」
アーシェは持っていた短剣でキロの胸を突き刺した。
使い魔「ご主人!!!何するんですか!!!」
血がすごい勢いで飛び出し、手が真っ赤に染まったが、かまわず掘り進めて、
キロの心臓を取り出した。
心臓は真っ黒で魔力の色に染まっていた。
アーシェ「手に持ってるだけでわかる・・・すごい魔力の塊・・・」
心臓から漏れ出した魔力がどんどんアーシェの体に染みわたっていく。
悪魔12匹分の魔力は、アーシェの体にすべて吸収され
キロの黒い心臓はもとの色に戻った。
アーシェはすぐさま心臓を元の位置に戻し、
時間を巻き戻して傷口を塞いだ。
アーシェ「これで、もう、魔力に侵されて死ぬことはないわ。」
そして、キロの体の上に白い剣を置いた。
アーシェ「約束、だったわね・・・」
アーシェは使い魔の首輪を外した。
アーシェ「これで、自由よ」
使い魔「・・・はぁ、ありがとうございます。」
使い魔「・・・ご主人様、これから、何をされるんです。」
アーシェから感じる禍々しい魔力にビビりながら恐る恐る尋ねた。
アーシェ「・・・あなた、カルデラ国に100年前に存在したって言われる神剣アーシェ卿って知ってる?自分の身勝手な行動のために父親を死に追いやった親不孝な娘のことよ。そのアーシェがもし生きていて100年の封印から解かれたら、どう思うかしら?」
使い魔「・・・父親を生き返らせたいと思うでしょうかね。」
アーシェ「でも、その娘には、指定した範囲の時間を巻き戻すことしかできないの
そのためには、膨大な魔力が必要だった、一緒に封印されていた悪魔12匹分に相当するような大きな魔力、そして、この国のすべての時間を100年間巻き戻せばお父さんは生き返ると思わない?」
使い魔「そんなことをすれば、今この国に生きている人々は・・・」
アーシェ「全員、存在すらなかったことになるわね・・・」
使い魔「はは、悪魔のような残虐な行為ですね。」
アーシェ「そうね、だって私は・・・もう悪魔なんですもの。」
使い魔はそのままアーシェを見送った。
下級悪魔でも、悪魔ならば時間の巻き戻しによる影響は受けないそうだ。
自分に被害がないならば、争う必要もない。
というか逆らったらつぶされるだけである。
アーシェは最後にキロを見た。
アーシェ「・・・いままで、本当にありがとう。・・・さよなら」
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キロは気が付いた。
心臓の痛みが消えて妙にすっきりしている。
横に使い魔が座っていた。
使い魔「キロさん、目が覚めましたか、どうです。首輪がなくなったんですよ、ようやく自由になれました。」
キロ「へー」
キロ(テンション高いなぁ)
使い魔「ご主人様から最後のお言葉です。『私の魔術の影響を受けないために白い剣を手放しては駄目、そして、他の国に逃げた方がいい、』と」
白い剣はキロの腹の上に置かれていた。
キロ「天使は何をするって言ってた?」
使い魔「いや、聞かないほうがキロさんのためですよ・・・」
キロは天使のことを考えた。なんだか嫌な予感がした。
使い魔のほっぺたを引っ張りながら
キロ「言えよ」
使い魔「はい」
カルデラ城の中心からおぞましい圧迫感
カルデラの国境付近に薄いもやがかかり始める。
キロはおかしな現象が起こっている中心、カルデラ城に向かって、白い剣とついでに使い魔も掴んで、走り始めた。
使い魔「なんで、私まで」
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