第36話 愛される悪魔 その2
キロは、カルデラに向かう途中、たくさんの兵士に取り囲まれて拘束された。
そして、今、カルデラ城の牢屋の中にいる。
キロ(・・・なんで?)
牢屋には他にもたくさんのひとが投獄されていた。
「はは、新入りかね」
見覚えのある人物がちらほら
キロ(・・・あれは、コック長・・・)
コック長「私の料理がまずいという理由で投獄されました。」
キロ(まずかったもんな、食堂の料理・・・ミリアに会うためだけに食べに行っていたっけ・・・)
キロ(・・・あれは先輩の兵士・・・)
ゴワンさん「よお、キロ久しぶりだな・・・俺は顔が怖いって理由で投獄されたぜ。」
キロ(怖いもんな・・・顔・・・優しい良い先輩なのに)
キロ(・・・あれは大臣・・・こんな大物まで)
大臣「コスカさまを見る目がいやらしいという無茶理由で・・・ううう」
キロ(・・・やらしいもんな目つきが)
使い魔「キロさん、必ず脱出のチャンスはありますよ」
使い魔も一緒に牢屋に捕まっている。
白い剣も没収されてしまった。
キロ(・・・もう、駄目かもしれない。)
夜半過ぎ、
兵士長が牢屋の前にやってきた。
兵士長「久しいな、キロ=エバンス」
キロ「・・・ご無沙汰しております。」
兵士長「ずいぶんやつれたじゃないか・・・あまり時間がない、いいかキロ、明日お前は、皇太子の妃と面会する予定だ。
お前はただ許しを請うのだ。
妃様はもう何人も敵対する人物を処刑している
もうカルデラ国は妃に支配されておるといってもいい
ただ、許しを請うのだ。わかったな、
メガロもミリアもお前のことを心配しておる。」
次の日
綺麗な空中庭園のテーブルに腰かけるひとりの女性
キロは手錠をかけられたまま、皇太子の妃、コスカ様と対面した。
使い魔の話だと、彼女こそが12匹目の悪魔らしい。
コスカ様「あなたがが11匹もの悪魔をたったひとりで退治した男ね・・・」
キロ「・・・・」
キロはぼんやりと彼女を見た。
コスカ様「・・・私は、悪魔、100年前は”愛される悪魔”って呼ばれていたわ」
普通の人間に見える、しかし、彼女は悪魔なのだ。
コスカ様「その心臓を魔力に侵されて弱ってしまった様子・・・とても似ているわ
・・・100年前、私を白い剣で突き刺したあの女騎士に
アーシェって名前だったかしら
私は懇願したわ、どうか見逃してって
でも、彼女は自分の父親のためにそれはできないですって哀れな女だったわ、口を開けば、父親のため、父親のため・・・彼女はきっと父親に好かれたくてしょうがなかったのね。」
キロ「・・・」
アーシェ・・・100年前のおとぎ話の人物
・・・しかし、キロの頭の中には、アーシェと名乗る銀髪の天使の顔が重なった。
コスカ様「私も彼女と同じ・・・好かれたくてしょうがないの
私は人間だったころ、ずっとひとりぼっちだった。
家が没落して、世間から逃げるように、隠れるように生活して
私はずっと願っていた。誰かに好かれたい、愛されたい、必要とされたい
ずっと願っているうちにある日、出会う人すべてが私を愛してくれるようになった
たくさんのひとが私を愛して、崇拝して、崇めてくれた。・・・そして、年を取らなくなった。それでも、私の欲求は尽きることがない、もっと愛されたい、もっと好かれたい。」
コスカの目はギラギラと狂気に満ちていた。
コスカ様「・・・そして、私を嫌うものを例外なく排除してきた。」
コスカ様「だからね、私の目的の妨げになるあなたを許すことができない。私は戦う力は普通の娘と大差がない。だから、いつも権力者に私を愛させて殺させるの」
彼女の眼は人を殺すことに一片のためらいもない眼をしていた。
コスカ様「あなたは、なぜ、悪魔を退治するの?国から報酬が出るわけでもないのでしょう?」
キロ「・・・天使に頼まれたから」
コスカ様「ふふふふ、天使なんているわけがないじゃない。この世にいるのは、・・・人間と悪魔だけよ。」
キロ「・・・」
コスカ様「あなたは明日、処刑される、私を愛してやまない皇太子殿下のご命令でね。・・・どうかしら、あなたが私の下僕になるというならば、許してあげなくもないわよ?」
キロは兵士長のセリフが頭をよぎった。
「ただ、許しを請えばいい。」
キロに降伏する気など微塵もなかった。もう迷わないそう決めた。思えば選択の機会はたくさんあった。だがそれは許されないことだった。迷ってしまえばもう精神を正常に保てない気がした。
『自分は悪魔を退治しなければならない』そう信じることだけが今のキロを突き動かす原動力だった。
キロ「・・・お断りします。」
心臓を魔力に侵され今にも死にそうな男の眼
コスカはキロの眼の中にに確かにブレない決意を見た。
コスカ様「・・・そう、わかったわ、とても残念だけど、さようなら」
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