第34話 殺戮悪魔 その3



少年はキロに気付いた。

「あ、誰だてめぇは?」

キロ「・・・」

「ビビっちまって声もでねぇか、きひひひひ」

キロ「・・・」

「俺はガランって名前だ。それ以外はいろいろ忘れちまった。」

キロはそのあたりの転がっている死体に目を移した。

キロ「これはお前がやったのか?」

「ああ、そうだ」


キロ「どうして」



ガラン「どうしてだぁ・・・面白れぇことを聞くなぁ・・・

適者生存だよ・・・

昔、どっかの偉そうなジジイがほざいてた妄言だ。

この世は弱いものが淘汰されて、強いものだけが生き残るのが道理だそうだぜ?

そう、この世界には、生きる価値のねぇ屑が多すぎる

そう、これは掃除だよ、お前も自分の部屋が散らかっていたら掃除ぐらいすんだろ?」




キロは許せないと思った。


キロ「・・・俺は自分には生きる価値がないって思ってたけど、お前を倒せれば少しは価値があるって思えそうな気がするよ。」

キロは白い剣を構えた。


ガラン「・・・白い剣・・だと・・・はははははは、面白れぇ、かかってきな。てめぇが生きる価値があるかどうか俺が試してやるよ。」



ガランは少年のような外見をしていた。

ボロボロの服を身のまとっている。

彼は悪魔だ。槍で突いても、死なない不死の体。

しかし、戦い方が今までの悪魔とは違いまるで人間のようだった。

彼は殺戮悪魔だが、何かの能力があるわけではない。ただの不死の人間だった。

だが、彼の一番の武器はその途絶えることのない殺戮衝動

ただひとりの少年が国境警備兵を撤退させるまで追い込んだ唯一の武器



兵士から奪った剣と槍を駆使し、巧みに立ち回る。



キロはなんとか懐に潜り込み浅い傷をつけた。

傷口から魔力が溢れ出し、キロの白い剣に吸収されていった。

ドクン・・・

ぐはっキロは膝をついた。

キロの心臓はもう限界に近かった。

少しでも魔力を吸うたびに心臓に激痛が走る。




その隙をついてガランの槍がキロの脇腹に傷をつけた。キロの腕からたくさんの血が流れ出す。

ガラン「なんだよ、慢心創意かよ。」





何度も打ち合う。キロは殺戮悪魔に切りかかるが、的が小さいことと身のこなしが上手いため浅い傷しかつけられなかった。殺戮悪魔もキロに浅い傷をつけてじりじりと体力を奪っていく。


キロは明らかに動きが鈍っていた。魔力がキロの体に吸収されるたびに体に力が入らなくなる。




キロがよろめいた瞬間後ろに回り込まれ槍で背中を刺された。


ひゅーひゅー

呼吸がうまくできないことに気が付く。

キロ(・・・・ヤバい、肺をやられた・・・)

肺をやられることは即ち呼吸困難で死亡することを意味していた。




ガラン(こいつ、面白れぇ、死にかけなのに、まったく戦意を喪失せず向かってきやがる。・・・何かを思い出すな・・・)




女?そうだ、俺の姉だ。

姉に乱暴しようとした屑どもを俺は全員殺した。

ボコられてものど元にくらいついて噛み切ってやった。

それで恨みを買って何人も屑どもが湧いてきて、殺して殺して、気が付いたら体が不死になっていやがった。

それから、年を数えることも、殺した人数を数えるのも面倒になっちまった。


姉「誰か、あの化け物を殺して・・・」

それが最後に聞いた姉の言葉だったっけか・・・



ガラン「・・・なんで、今そんなつまんねぇことを思い出すんだよ!!!!」




ガランはキロにとどめを刺すべく突進した。すれ違いざまにキロはガランの体に剣を突き立てた。

ガラン「がはっ・・・」



ガラン(やべぇ・・・魔力が抜けていく・・・)



ガラン「ちっ最高にダサい最後だな・・・・てめぇはちょっとは生きる価値があるかもなぁ・・・」



キロはガランの魔力を吸いながら、地面をのた打ち回って苦しんでいた。


ガラン「・・・って聞けよ、コラァ・・・」

ガランは小さな子犬の姿になって、荒野に逃げて行った。






キロは重症であった。脇腹の傷は内臓に届いているし、肺にも穴を開けられて呼吸もままならない状況だった。

血が溢れ出し、あたりを赤く染めた。

キロ(・・苦しい・・・苦しい・・・)


使い魔「キロさん、しっかりしてください。」



天使がふっと現れた。

天使「・・・・・」



使い魔「ご主人様、もう彼はダメかもしれませんね、もう十分役目を果たしました。もう安らかに眠らせてあげましょう。」





天使はキロの言葉を思い出した。

「殺したいわけじゃない。もうあんたの目的について聞くつもりもない。俺はただ悪魔を退治するだけだ。」



天使(・・・・私は、彼にひどいことをした。・・・せめて、彼の命だけは助けてあげよう。・・・本当は少しも魔力を無駄にできないけど)




天使はしゃがみこんで、血まみれのキロを抱きとめた。

キロの周囲に流れた血が重力に逆らうようにキロの傷口に戻っていく。

傷口や傷がみるみるふさがってしまった。

服も何もかも戦う前に戻っていくようだった。

治癒というよりは、まるで、時間を巻き戻すようだった。



キロは気が付いた。



キロ「・・・・」

しかし、少しも気分は優れなかった。

11匹の悪魔の魔力を蓄えたキロの心臓は限界に近い。




キロ「・・・・天使」

天使はキロの近くに腰かけていた。



天使「名前・・・わたしの名前は、・・・・アーシェ=グラフェンよ。」




天使はそう名乗るとふっとどこかへ消えてしまった。

キロ「・・・どうして急に名前なんか?」

使い魔「どうしてですかねぇ?」



アーシェって名前はよくあるとして、

グラフェンって、前にどこかで聞いた名前だな・・・ずっと昔、孤児院で

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