第29話 劇場悪魔 その1



カルデラの国に伝わる有名なおとぎ話の一説

100年前のデシベル王の伝説より

魔女モールスは12匹の悪魔を操り、カルデラの人々を苦しめていた。

王直属の騎士が自らを犠牲に魔女を打ち倒す物語

特に有名なのが最後の一説

騎士の中で一番の実力者だったのが

神の剣の使い手と呼ばれた女騎士アーシェ

彼女が魔女と差し違え魔女を葬り去った。

将軍であった彼女の父親は、娘の死を悔やんで自害してしまう。

その後、デシベル王のもとカルデラは最盛期を迎える。




パイロン「素晴らしい物語だ。」




サーカスのピエロのカッコをした怪しい人物が屋根の上で読み終えた本を閉じた。



「私が主人公でないところはマイナスですが、こんなに素晴らしい物語が”実際に起きた”ということが素晴らしい。そう、100年前に生きていた私と同胞の悪魔達しか知りえないことですが」




「そして、私は、書き続けなければならない。より素晴らしい物語を、あはははははははっははは」





ここは、ルブランの町、カルデラからも、ロズワードからも、遠くもなく、近くもなく、貧しいわけでもないが富んでいるわけでもない名物というほどのものもない。特に何かの信仰に篤いというわけでもないが、町の中央には神の剣の使い手と呼ばれた神剣アーシェ卿の像が建っていた。

運命に翻弄された悲劇の女性の像・・・平凡なこの町には似合わない像だった。





キロ「普通に普通に生活できれば、良かったのに・・・」

カルデラの警備兵はそんなに割りのいい仕事ではなかったけれど普通にこなせていた気がするし、あの夜の盗賊さえいなければ、首にされることもなかっただろう。

もう後悔しないって決めたけれども、精神が弱るとそのことばかり考えてしまう。




槍で突かれた腕の傷は治りが遅かった。

少しでも手荒に動くと傷口が開きそうだった。

キロは肉体、精神ともに疲労困憊であった。




使い魔「キロさん、あと3匹ですよ。あと3匹倒せば、キロさんもお役御免で、私も自由になれます。」

キロ「・・・・・」

使い魔はやはり自分のことばかり考えていると思った。

だが、それは悪いことじゃない。自分の利益を追求するのは悪いことじゃない。




キロは直感した。心臓の痛みが悪魔を退治するほどに増している。

もう自分の体は長くは持たない・・・多分近いうちに・・・死ぬ。

キロ(ああ、どうしてこんなことに・・・)





ルブランの町の普通の家に住む平凡なおじいさん

おじいさんは思った。

どうして自分はこんなにも平凡な人生を送ってしまったんだろうと

この町に生まれてこの町で育ち

洋服職人として弟子入りし

この町の幼なじみと結婚し

息子ができ

息子も嫁と所帯を持って

今は幼い孫とともに生活する毎日

平凡が一番であると思うが、反面物足りないとも感じてしまう。


おじいさん(もっと、刺激的な生活がしたい・・・)





「・・・・あなたは間違っていません。・・・何の刺激もない普通の平凡な人生なんてつまらないことの極みですから・・・私が面白くしてあげますよ。あなたの人生を・・・」





後ろから怪しげな男の声がした。甲高い気味の悪い声だ。

すぐに振り返ったが誰の姿もなかった。





【劇場悪魔】

ひとの記憶を読み取り幻を見せる悪魔

すべての人生は劇的であらねばならないと考える

道化師のかっこうをしている




おじいさんはその日夢を見た。

道化師の男がおじいさんの夢枕に立ちこうつぶやいた。





「1日ごとに家族が消える。消されたくなければ眠らないことだ」





朝、おじいさんがいつものように起きて朝食を取ろうとすると

いつもとなりに座っているおばあさんがいない。

おじいさん「おばあさんはどうしたんだね。」

息子「・・・・?誰のことを言っているんだい?」

息子と息子の嫁と孫がいる。

しかし、おばあさんがいない。



朝食の後、仕事を息子に任せて家の中を捜しまわった。

おばあさん、妻の部屋に何もなく、おばあさんがいた痕跡さえすべて消えていた。



おじいさん「そ・・・そんな・・・」

おじいさんは戦慄した。

おじいさんの記憶には、確かに、おばあさんの記憶がある。

これがすべてまやかしだとでもいうのだろうか。



孫「おじいちゃん、どうしたの、どこか痛いの?」

まだ、小さな孫がおじいさんの服を引っ張った。

息子の妻「こらこら、おじいちゃんに世話をかけちゃだめでしょ?」

おじいさん「いやいやエリアさん、今日は孫と遊びたい気分じゃ」



孫と遊んだ疲れからか、おじいさんはぐっすりと寝てしまい翌日の朝



今度は、孫が消えていた。

息子「俺たちに子供がいればなぁと思うけど、まだ、孫はいないんだよ。」

息子の妻「申し訳ありません。私も早くお孫さんの顔をお見せできればと思うのですが・・・」



やはり痕跡も残っていない。

おじいさんは、はっきりとあの薄気味悪い声のお告げが本当のことだと認識した。





寝てはいけない・・・・





その何日間か、おじいさんは明かりを灯して必死に眠気と戦った。

朝になり気の緩みからか少しうとうとしてしまうと

息子「俺にもいいひとが見つかればって思うけどさ・・・」



おじいさん「ああああああああ」



おじいさんはついに倒れてしまった。

息子は仕事の合間をぬって必死に看病してくれた。

おじいさん「すまないな・・」

息子「いいっこなしだって、俺さ、父さんの息子で本当によかったって思うんだ。ゆっくり休んでくれよ親父、何日だって看病するからさ。」



その何日か、おじいさんは必死に眠気と戦ったが・・・・

気がつけば息子は消え、この家にいるのは自分ひとりになってしまった。




以上『孤独な老人』というタイトルでいかがでしょう?





「うーーーん、素晴らしい。人が不幸に堕ちていく様は、本当に悲劇的で心が揺れる。家族同士が殺しあう物語は少々飽きてきたので、ここらへんでこのような話を入れるのも悪くありませんね。」




うーーーーーん次は・・・・



道化師の男は屋根に上ってあたりを見回した。

そして、キロの姿を見つけた。

「面白い素材ですね。」



劇場悪魔は次のターゲットをみつけたのだった。

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