PostGoth~鳥籠姫の謌

相良あざみ

Prologue

 ――――――くらき街のくらみち、月もないその夜に、君よ、行かれよ

 そびえ立つは鳥籠館ラ・ヴォリエしろがねの薔薇を纏いし館

 首無し天使の閉ざす門は音もなく君を迎え入れ、そしていざなうだろう

 赤い天鵞絨ビロードの階段を下り、月満ちる天井そらの元

 君は聞く、妖しく美しき声を

 無垢な籠に囚われし、羽根を無くした哀れなる小鳥

 彼女の名は鳥籠姫グリヴ・シャルム

 彼女の前では皆須く口を噤む

 穢れた土大地を踏み締めることはなく、籠の中、身を震わせて

 真白きシルクの下かくる瞳を見た者はなく、籠の外、身を震わせて

 嗚呼

 鳴けよ鳥籠姫

 しめやかに

 さあ

 うたえよ鳥籠姫

 高らかに――――――




 新月の夜、鳥籠館の地下ホールにはとある紳士淑女達が訪れる。

 ドレスコードはホワイトタイにイヴニングドレス、一様に胸元へ飾られるのは銀の薔薇――それが館への招待状だ。

 彼らの目的はただひとつ、鳥籠姫の謌を聴くこと。

 シルクのリボンで目隠しをされたのない彼女が鳥籠の中、足首を鎖に繋がれて、シェーズ・ロングに身を預け高らかに謌い上げるそれを、聴くことだ。


 鳥籠館には幾つかのルールがある。

 ――鳥籠のぐるりを囲むロープへ近付かないこと。

 ――鳥籠姫が歌い始めたらば、決して席から離れないこと。

 ――ホールへ入って再び外へ出るまでは、口を開かないこと。

 そして何よりも――鳥籠姫の虜になってしまわないこと。


 彼女の声を讃えても、彼女の世界に浸っても、決して彼女の謌の虜になってはいけない。


 ――もし、虜になってしまったら?


 そんなに気になるのなら、ルールを破ったら宜しいでしょう。

 但し、何が起きても当方では責任は負いかねますけれど。

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