ボクの家出〜惑星マヲルーダ〜

宮沢春日(はるか)

搭乗篇

「さよなら、お母さん。さようなら、お父さん。さようなら、地球。」

 チケットを握りしめ、ボクは心の中でつぶやいた。

口をぎゅっとむすび、惑星マヲルーダ行きの宇宙船の搭乗受付の列に並び、後ろを振り向く。

 見送りはいない。いるわけはないのだが、すこしだけ、ボクは期待していた。

ボクが残した書き置きに気づき、両親が駆けつけて泣きすがることを。


 数日前、ボクは両親とけんかをした。ボクは、歌手になりたかった。スターになりたかった。

 父さんと母さんは、ボクを医者にしたかった。父さんは大きな病院の理事長で、ボクを二代目候補の若い医者と結婚させ、病院を継がせることばかりを考えていた。

ボクは、女医やらナースやらなんてガラじゃなかった。

白衣をきて、毎日毎日、患者さんの愚痴を聞くなんてまっぴらごめんだ。

 だから、こっそり計画を立てた。お小遣いを貯め、宇宙船のチケットを買った。

遠い遠い場所にいって、そこでスターになるんだ。ボクは夢はどんどん膨らんだ。


 案の定、両親たちはボクが歌手になる事を許さなかった。ボクは何度も家出を繰り返し、そのたびに親に連れ戻された。

ボクは、両親が大嫌いだ。だから、遠くへ遠くへ逃げ出したかった。

 家出の距離はどんどん遠くなった。最初は近所の空地だったのが、友達の家になり、何駅も電車に乗った先だったりもした。

それでも親は、必ずボクを見つけ出し、連れ帰ってきた。


 チケットに書かれた席につき、もう一度窓からプラットホームを伺ってみる。

やっぱりだれも来ない。くるわけはないか。

宇宙船がホームから滑り出した。ボクは微笑んだ。こんどこそ、もう追ってこれやしない。ざまあみろ。

ボクは、メモ帳をとりだした。いまならなにか、すてきな歌が思いつくような気がした。

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