アイリバース

遠野朝里

アイリバース

現在

再生開始

 真っ暗で、なにも見えない。視界が閉ざされているからだ。

「……今までのこと、聞かせてもらってもいいですか?」

 だが暗闇の中であっても、そう尋ねる少女の声が悲しげなことは、わかる。

「はい」

「……お願いします」

 声が震えている。なぜ少女の声が震えているのかはわからない。

 しかし少女には権限が与えられている。命令に、声色の如何いかんなど問わない。与えられた命令通りに動くのみだ。

「では、二〇五六年五月十七日より、二〇五六年五月十九日の主観記録を確認します――確認完了。記録に破損はありません。記憶の強度に従い、復元及び編集を行います。この作業には数分ほどかかる場合があります」

「記録に、破損は……ないんですね。でも……」

 少女はあいまいに言葉を切った。

 記録に破損はない。そのぶん膨大だ。少女にすべてを語るには、相当な時間を要する。

「――復元、終了。再生を開始してもよろしいですか?」

「お願いします」


 これは記録である。

 だが、少女にとっては記憶となるのだろう。

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