第89話

 私達は大切な事を忘れていたのかも。

だけど今はデイダラボッチを倒さないといけない。

その事に駆られて空を飛ぶ。


「韋駄天!雛ちゃん!敵の張り手は勢いはあるけど速くは無いよ!3人バラバラに移動して的を絞らせないように!一気に片付けるよ!!」

「オーーーケーーーー!!!」

「はーい!」

二人の心強い返事が返ってきた。


「蘭ちゃん頼むよ!もうひと踏ん張り!!」

「任せてください水樹様!」

ぎゅうちゃん、またあなたの力を借りるよ!」

『まだまだいけるぞ!』


二人共嬉しそうに答えてくれる。

大丈夫。まだやれる。

後方をチラッと見ると、仲間たちはデイダラボッチの手の届かないところへ移動し始まる。

重症患者もいるなか、皆が協力して移動していた。


一気に頂上へ向かう。

デイダラボッチは長い髪で上半身は裸。

だけど体は魔物化し真っ黒だった。

山にしがみつくようにしている。

足場が悪いように見えた。


私は確信する。勝利を!

「韋駄天!雛ちゃん!めくらましをお願い!」

二人は交差しながら、デイダラボッチの顔の付近で攻撃しながら飛び回る。

デイダラボッチから見たら、顔の前にたかる虫のようかもね。


追い払おうとしたその隙に、山頂手前の山肌に降りると、そのまま風のように蘭ちゃんに走ってもらった。

本当に風になったかのように駆け抜け山頂が見えてくる。

そのまま走り続け、デイダラボッチの顎の辺りへジャンプし、蘭ちゃんから勢い良く飛び出す。


「ヤァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!」

朱雀は3mほどにまで伸びると、そのまま下から振り上げた!

ズバンッ!!

刀の長さからは想像出来ない速度で振りぬくと、デイダラボッチは黒い霧となっていく。


「出てくるのが遅かったわね…。」

そう最後に告げた。

彼がもっと早く出現し攻撃してきたならば危なかった。

味方ごと攻撃してくるような奴だもんね。

それを思うとゾッとする…。


私達は高賀神社に潜んでいるはずの、さるとらへびに注意しながら仲間達の元へと戻っていった。

「お見事!」

黒爺がニヤリと笑いながら出迎えてくれた。ちょっと嬉しい。

だけど、この時起きていた異変に、今更ながら気付いた。


「おっとっと…。」

韋駄天が乗っていたからす達の集合体である大烏が、到着手間でバラバラになり、そして落ちていく。

「烏さん!?」

雛ちゃんが乗っていた大鳥さんも、フラフラしながら地面に不時着する。

信じられないほどグラグラしそのまま倒れて消えた。

そうこうしていると、蘭ちゃんにも異変が起きる。


「水樹様…、力が…、力が出ません…。」

「蘭ちゃんしっかり!」

蘭ちゃんもフラフラになり、かろうじて地面に着地する。

私は直ぐに降りると、蘭ちゃんを右手首輪に戻した。

「欄ちゃん大丈夫?」

『はい…。しかし…、力が…、霊力が足りませぬ…。』

「霊力が足りない!?」

慌てて周囲を見渡した。

どの仲間も苦しそうだった。


まさか…。

私はやっと気付いた。

「高賀山からの霊力供給が止まっている!!」

雛ちゃんや韋駄天も気付いたよう…。

これはマズいよ…。


私は慌てて周囲を見渡すも、霊力供給が止まった原因となるような物は見当たらなかった。

そうなると、やはりさるとらへびが実行していると考えるのが妥当だよね。


「出てこい!さるとらへび!!」

私は挑発する。だけど奴は姿を表さなかった。

その間にも仲間達はどんどん弱っていく…。

「皆しっかり!!諦めちゃ駄目!!」


小さく霊力の弱い妖怪が一人、また一人と姿を消していく。

これは姿を維持できなくなったことを示しているよね…。

つまり魂の消滅を待つばかりの状態…。

このままじゃ皆消えちゃう…。それだけは阻止したい…。


そう思った瞬間、


ドクン!!!


と、鼓動が一際大きく聞こえた。


その大きな鼓動は次々に続いていく。

脳天まで響く強い鼓動…。

そうだ…。高賀山からの霊力が供給されないなら、別のところから供給を受ければいい。


「「「私が皆の生きる力になる!!!」」」


ドンッッッッ!!!

そう願った。

刹那せつな、体からなにかが弾け周囲に広がる!

高賀山からの豊富な霊力とまではいかないけど、弱々しいながらも霊力が溢れ周囲に広がった。


すると、姿が消えた妖怪達が少しずつ見えるようになっていく。

これだ!私が霊力の供給源になればいい!!


もっと!もっと!!もっと!!!

キィィィィン…


願えば願うほど体から光の輪が広がる。

キィィィィン…、キィィィィン…、

キィィン、キィィン…、キンッキンッキンッ!!!


その光の輪は不思議な音を出しながら次々に広がっては消える。

だけどその都度周囲の霊力が強くなっていった。

「水樹殿!それ以上は駄目じゃ!」

黒爺の声で彼を見た。

大丈夫と言うつもりだった。

体の奥底から泉のように霊力が溢れてきているのが分かるから。


だけど彼は驚きの眼差しを私に向けている。

「何と…。そなたは…、そなたは…、地上に降り立った神だとでも言うのか…。」

その言葉の意味は分からなかった。

だけど不意に自分の体を見ると、いつもの赤いオーラじゃなく、紫色をしたオーラを纏っていた。


「色が変わった…?」

「霊力の泉が体内に宿るなど…、その昔、巫女という立場で我らが国を治めた巫女以来じゃぞ…。」

「でも大丈夫。私は私。何も変わらないよ。」

「………。」


黒爺はハッとした顔をした後、目をつむりニコリと笑った。

「そうじゃな…。霊力が供給されたとはいえ、妖怪達の動きは流石に悪くなる。ここからはワシら四人でさるとらへびを討つぞい。」

「そうだね…。」


仲間を見渡すと、才蔵さんとかが援護すると言ってくれているけど、明らかに辛そうだった。

「皆の気持ちは凄く嬉しい。だけど、死なせる為に戦わせる訳にはいかないよ…。この状況はさるとらへびの作戦だと思うの。だから、望みどおり私達が闘います。そして勝って返ってきます!」

仲間達は全員私に注目してた…。




一瞬色んな事を思い出した…。




「皆の命を私に預けて!必ず勝ってくるから!!!」




その言葉に、皆片膝を付いて御意の姿勢を取った。

一気に緊張感が高まった瞬間だった。

私の命も、私だけのものじゃない!

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