第90話

 「欄ちゃん、いける?」

私は右手首につけている首輪に向かって喋りかける。

『いけます!行かせてください!』

ボンッと煙と共に現れた蘭ちゃん。


だけど尾の数が9本しかない…。

元々11本あったのだけども、霊力不足できっと能力ダウンしているんだと思う。

「申し訳ございません…。私は水樹様に一番近いところにいながらこの有様…。」

「いや、この状況を考えれば蘭丸は十分やっているぞい。」

黒爺がフォローしてくれた。


ショボンとしている蘭ちゃんも可愛いけど、今はそれどころじゃないよ。

「蘭ちゃん、よく聞いて!今出来ることを1つずつやっていくの!それだけでいいんだよ。」

「水樹様…。」

蘭ちゃんの目に力が蘇る。


「牛ちゃんは大丈夫?」

私は首から下げる皿の欠片に向かって語りかける。

『まだまだ暴れたりませぬ!』

ふふ、それだけ元気があれば大丈夫そうね。

ふと気になり上空を見渡す。


「まだ敵が潜んでいる可能性もあるね。からす達!しっかり見張っていて!」

そう伝えると烏の大群は上空を飛び回る者、木々に留まり周囲を警戒する者と、四方八方の索敵を始める。

「そもそも、烏は巫女の使いだからの。普通なら言うことは聞くじゃろう。」

黒爺が解説してくれた。


「水樹ちゃん、大丈夫かな?勝てるかな?」

雛ちゃんが不安そうだった。

「大丈夫!色んな苦労があったけど、四人で乗り越えてきたじゃない。」

「うん…。」

「何も信じられなくても、私だけは信じて!一緒に答えを探してあげる!!」

「水樹ちゃん…。」

私は彼女の苦悩も理解しているつもりだよ。

そっと抱きしめてあげると、震えていた雛ちゃんの体が収まっていった。


「韋駄天!足が折れても走るって約束、守ってもらうからね!」

「おうよ!男に二言はないぜ!それにさ…。」

「それに?」

「まだ走りたくてウズウズしているからな。」

「フフフ…。」

ニーっと笑う韋駄天にちょっと癒された。


「さぁ、黒爺!行くよ!!」

「そうじゃな。」

シャリーン…。

錫杖しゃくじょうを地面に一突きする。

綺麗な音色が響いた。


そして4人は高賀神社へと進む。

拒む敵はいなかった。

静かになった戦場の遠くからは少しずつ恐怖を煽るような妖気を感じた。


いる!


4人は確信する。

高賀神社に奴がいる。

全ての元凶であるさるとらへびが!


再び高賀神社前まで来ると、その妖気は増々強く感じた。

視線を感じ境内へ続く階段の最上段を見ると、暗闇の中から真っ赤な目が二つ見える。


「ほぉ、我の策を防いだか…。」

そう語ったさるとらへび。

ゆっくりと階段を降りて月明かりに照らされる。


!?


その姿は、三千洲さんぜんぶちで見た時とは大きく違っていた。

体は二回りほど大きく、全身がドス黒い。

尾の蛇は5匹に増えている。

奴自身、魔物化していたようね…。


ゴクリッ…。

姿を視た瞬間、強制的に理解してしまう…。


その圧倒的存在感を。


その暴力的な力を。


その絶対的威圧感を…。


まるで心臓を鷲掴みにされたかのような息苦しさ…。


私は、挫けそうになる自分の心を振り払うかのように、朱雀を左上から右下に向かって一振りする。


ブォンッ!


二倍ほどの長さになる。

だけど今までよりも、より強力な力が滲み出ているのが分かる。

色は赤から紫色に変化し、霊力が凝縮されているのが分かる。


体から溢れる霊力を開放し、周囲への散布濃度を上げる。


トクンッ…、トクンッ…。


鼓動を感じ、暴走して鬼にならないよう注意した。

鬼になっては元も子もないからね…。


蘭ちゃんは私の左側で攻撃体勢を取っている。

右後ろには短剣を構えた韋駄天が、左後ろには錫杖を構えた黒爺が、真後ろには雛ちゃんが陣取りいつでも防御行動を取れるようにしていた。


「行くぞ!」


その言葉と同時に黒爺が私の前に現れたかと思うと、錫杖で鋭く頭上から狙う。

今までの黒爺の動きとは明らかに違う!

ザンッ!!


さるとらへびの頬を擦るように空振る。

直ぐに錫杖を上に振り上げ顎を狙う!

死角から狙ったはずだけど、さるとらへびはそれそら避ける。

そこへ突如横っ腹へ韋駄天が突っ込んできた。


だけど、彼の速度ですらさるとらへびは見切っている。

交わそうとする素振りを見せた。

そう思った瞬間、雛ちゃんがさるとらへびの足を防御壁で囲い動きを止める!


ドンッ!!!

韋駄天の攻撃がヒットする。

しかし、赤いオーラを纏う短剣は、彼の皮膚を突き抜けることは出来ない。


尾の蛇が動きを見せた。

私は朱雀で応戦する!

ブンッ!ブンッ!!


黒爺の錫杖でも攻撃するが、その全てを足を固定したまま器用に交わしつつ、五匹の蛇が激しく鋭く攻撃してくる。

足を斬り落とすつもりで攻撃するも、防御壁を破壊し一旦距離を取ろうとした。


私は構わず前進し距離を取らせないようにする。

すると蛇が何かを吐き出した!

ブオオオォォォォオォォォォォォ!!!

炎のブレス!


これには今度はこちらが距離を取る。

逆にさるとらへびが、そうはさせまいと突っ込んでこようとしたところを、蘭ちゃんが牽制し動きを止めた。

「下衆共が!」

さるとらへびは苛々しているのが分かる。


きっとこうなるのは分かっていたはず。

だから霊力の供給を止めて一人でも数を減らそうという狙いが最初からあったんだと思う。


この状態が保てるならいける。

そう思わせるには、十分な心強い仲間達だった。

だけどさるとらへびには、まだまだ隠している力があることを、後で知ることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る