第85話
私が対峙する老剣士は、居合い抜きの格好のまま、微妙に間合いを測っているように見えた。
来る!!
直ぐに体を逸らし朱雀で防ぐ。
キンッ!
と甲高い金属音。
霊力と妖力が衝突し、火花が散ったようにも見える。
刀は直ぐに鞘に戻され、再び構えに戻っていた。
目では彼の攻撃はほとんど見えない。
見えていたとしても、あの速さに体が付いていけないかも。
だけど私には『真実の目』がある。
それで先読みし何とか防げているに過ぎない。
こちらから攻撃するも、
鞘で簡単に防がれてしまう。
まるで相手も真実の目で視ているかのよう…。
突如老剣士が刀を縦にし、何かの攻撃を防ごうとする。
鞘にぶつかる寸前の韋駄天が、急ブレーキで止まって直ぐに離れる。
彼の移動も見えていると言うの…?
だとしたら、私からどうやって攻撃して良いか分からなくなっちゃう…。
更には、突如フラフラとゆっくり移動する老剣士に向かって、猛烈な速度で振り下ろされた岩鬼さんの拳が降り注ぐ。
地面をエグり飛び散った土さえも、ゆっくりとした動作の中で避けていく。
驚くべきことに、常に視線は私に向けていながらということ…。
何て人なの…。
私は正直怖いと思った。
さるとらへびが持つ、圧倒的な威圧感や獰猛さからくる恐怖心とはまた違う。
研ぎ澄まされた刃の上に立っているかのような緊張感。
一瞬の隙が、即命取りになるような痺れる感覚…。
「どうした小娘。怖気付いたか?」
まるで心の中まで見透かされているよう。
彼はずっと私の目を覗きこんでいる。
もしかして…。
勘だけど、私の目から得られる情報を頼りに攻撃を予測しているのかも。
真実の目により、韋駄天の突撃も岩鬼さんの拳も予測出来ている。
それすらも読み取りつつ、元々持ちあわせている防御力を最大限に活かしているのかもしれない。
だとしたら…。
私は目をつむった。
「水樹様!?」
蘭ちゃんの心配する叫び声が聞こえた。
蘭ちゃんは蘭ちゃんで、私と老剣士が1対1で闘える状況を作ってくれている。
だからこそ、老剣士以外の攻撃は全て仲間に任せて、私は一人に集中出来る。
もちろん河童さんも地味に頑張ってる。
目をつむっても真実の目が発動するのかは試したことはないけど、こういう非常事態を打破するには、常識を破ることも必要だということを私は知ってる。
だから、大丈夫かどうか心配する前に、この方法で一発勝負で命を賭けるしかないのだと腹をくくる。
私が受け継いだのは真実の目だけじゃない。
母から受け継いだ、何にも屈しない『情熱の心』がある!!
私はこの非常時に、もしかして…、と一つ策を思い立つ。
霊力を自分の周囲に散布する。
その霊力に触れれば、思った通り、触れた人の動きがわかった…。
これだ!
敵の黒い矢が3本降り注いでくるのを、散布した霊力によって察知する。
私はさっき老剣士が見せた動きを脳裏に重い浮かべた。
数センチ単位で矢を交わしていく!
「貴様…。」
老剣士から感嘆の声が聞こえた。
相手の心情も読める。
これはまさに情熱の心が作りだした偶然の産物に、真実の目の効力が重なっている状況だと理解した。
老剣士は私の変化に気付き、直ぐに探りの攻撃をしかけてくる。
7度居合い抜きで攻撃してくるが、どれもこれも最小限の動きでギリギリで交わしていく!!
「何とっ!?」
さすがの老剣士も驚きを隠せていない。
反撃に出るけど、やはり攻撃は防がれてしまう。
彼から本気の攻撃が次々に繰り出される。
今までよりも格段に速い!
私は咄嗟に体が動いた!
スパッ!!!!!
時が止まったかのようだった。
彼の斬撃を白刃取りしたのだ!
そのまま霊力を流しこみながら刀をよじり、彼ごと宙に舞わせた!
「ぬぅ…、お見事…。」
目を開けると、老剣士は黒い光の粉となって消えていこうとしていた。
「敵ではなく、味方としてあなたと闘いたかったです…。」
私は消えていく老剣士に、そう語りかけた。
「………。」
彼はフンッとそっぽを向きながらも、頬を緩めた表情で消えていった。
消えきったことを確認すると、大声で叫んだ。
「韋駄天!!」
ザッと目の前に登場する韋駄天。
「星宮天狗さんに大亀の炎のブレスを止めさせて!」
「了解!」
言葉だけを残し姿を消すと、彼は星宮天狗さんを後衛部隊で、亀の真ん前に連れてきた。
大亀は大きく息を吸い炎のブレスを吐く!
しかし、星宮天狗さんの持つ扇子により突風が巻き起こり、炎は逆に亀を包んだ。
自らの攻撃で自分の体を焼いていく亀もまた、黒い粉になって消えていく。
こうして強敵を潰しつつも、敵は次から次へと雪崩れ込んでくる。
武者姿の大群が現れると、中級以下の妖怪達は劣勢を強いられていた。
流石に生前に
特に動物系の妖怪で下級の物は歯がたたない。
「いでよ守護神!!!え゛え゛い゛!!!」
遠くから黒爺の声が聞こえると、空に一筋の光が現れ後衛前面に着弾する。
ドッフーーーーーーーーーン…
「
私が叫ぶと同時に、四本の手には刀が握られ、後衛を襲おうとする武者達をバッタバッタと斬っていった。
これで再び目の前の敵に集中出来る。
河童さんが隣にやってくると、口から水を吐き出す。
まるで水鉄砲のように敵を撃つと、水を被った相手の動きが極端に鈍ってる。
どうやら動きを封じる効果があるみたい。
そこを仲間達がとどめを刺していく。
「やるじゃない!」
河童さんに声をかけたけども、彼は酷く疲れたいた。
「まだまだ…。」
新たな敵を探す彼。
「河童さん、下がりなさい!」
「だけど、俺は…。」
「「「下がりなさい!!!」」」
言の葉の力で強制的に下がらせる。
河童さんは不満そうな顔をしていた。
「約束したでしょ!また、全員で帰るって!!!」
その言葉に彼は、片膝をつきながら深く礼をすると共に、後衛に下がり休憩に入る。
「巫女殿!中央が厳しいぞ!」
岩男さんからの叫びだ。
宿儺さんは確かに後衛を守ってはいたが、何せ数が多い。
少しずつ傷付いているのが視えた。
「蘭ちゃん!」
彼にまたがり中央へ向けて駆け出す。
「
『待ってたぞ!』
朱雀を長くし、大振りながら敵陣に突撃していく。
左翼からも才蔵さんが援護してくれた。
私は蘭ちゃんと颯爽と翔ける中、現状打開の為に兎に角攻撃していく。
そこへ上段からと横振りからと突きの3方同時に刃を突きつけられる。
だけど今の私には、スローモーションの様に視えた。
3方からの攻撃をどれも最小限の動作だけで交わしながら逆に斬り返す!
ズババッ!!!
「流石、姫殿!」
才蔵さんが珍しく褒めてくれた。
私はいつの間にか居合い抜きの老剣士から防御を学んでいたみたい…。
まさかこれって最初から…。
こうして中央を四方より攻撃し、強敵だった武者たちを追い詰めていく。
黒爺や朱狐さんからの遠距離攻撃や、範囲攻撃も効果的に決まり、数を減らす事に成功した。
私は直ぐに持ち場の右翼に戻り攻撃を続ける。
だけど…。
次から次へと湧いてくる敵に、半ば嫌気もさしているのは否定できなかった。
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