僕は魔王軍の一員として、精いっぱいがんばります!
あいうえお
第1話
燃えている。村も、家も、人も。建物もだけど、生きてるものが燃えてるのは、すごい迫力だった。踊るみたいに、人の形の火が跳ねまわる。あんな声は、今まで聞いた事がない。どう言えばわかってもらえるかも、わからない。
いつもの一日の終わり、部屋のベッドで、本を読んであげてたぼくに妹は言った。
「お兄ちゃん、あれなに?」
ぼくがそれを確かめて、何かを答える前に、轟音が響いた。次に悲鳴が聞こえて、震えながら覗いた窓からは、村に跋扈するモンスターの影が無数に見えた。
魔王軍の、襲撃だ。きんにくやぎゅう、おうごん鎧、八頭スライム、幻魔導師。ここらへんじゃ見たこともない、高レベルなモンスターがうようよいた。誰も歯が立たなかった。いや、戦いにもならない。立ち向かって、逃げ惑って、命乞いして、殺されるだけだった。村一番の力持ちのロックベルさんは、きんにくやぎゅうに持ち上げられて、腰から二つに千切られた。胴体から離れても、足が暫くバタバタと宙を蹴っていたのを憶えてる。
「精一杯、逃げるんだぞ」
「振り返っちゃだめよ」
パパとママの決断は早かった。ぼくと妹に家のお金を渡して、裏口から逃がした。2人は、玄関から外に出ると、わざと騒いで、囮になった。足が竦んで動けなかったぼくらは、玄関の方から聞こえた湿った何かが潰れる音と、うがいみたいな声でようやく走り出すことができた。走って、走って、走って、。火に包まれて、ぽつんと夜の闇に浮かび上がる小さな村を見ながら、ぼくたちはようやく立ち止まった。
「お兄ちゃん」
「絶対に生き残るんだ」
ぼくは、泣きはらす妹に、そして自分に言い聞かせる。絶対に生き残る、そして……魔王軍をこの手で……。
「あ、見っけ」
その覚悟は、残念ながら役に立たなかった。
逃げる僕たちに気づいたきんにくやぎゅうが、村からひとっ跳びで、ぼくらのすぐ近くに着地した。着地の時の衝撃で投げ出されたぼくらは、逃げることなどできなかった。せめて格好良く妹を護ろうと前に這って出てみたけど、デコピンで二人一緒に粉みじんにされてしまい、あまり意味はなかった。
ぼくたちが死んで、村にいた人間は全て死んでしまった。火にかけた水が、まだぬるくもならないくらいの短い時間で、僕の村は全滅した。
「お兄ちゃんごはんだって!」
「わかったよ、ミド」
本を閉じて、ぼくは部屋を出る。食卓には、すでにみんながいた。パパも、ママも、妹も。ほかの家にも、いつも通りのみんながいて、朝食をとっているだろう。
「ごはんの時は、すぐに来なさい」
「本が良い所だったの?」
「お兄ちゃん、ぼんやりしてるからね」
いつもの会話だ。みんなモンスターだって以外は、だけど。
パパは、はえにんげん。ママは、お化け板。妹は、レッドドラゴン。家はあちこちが壊れているし、テーブルに並んでいるのは、生肉や生の野菜だ。
「あ、取れちゃった」
「ちゃんとくっつけときなさい」
そして、僕はゾンビだった。右腕が良く取れるのが、最近の悩みだ。断面をくっつければすぐに治るけどね。
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