掌編集1 奇想カタログ

石屋 秀晴

狂死連鎖

 突き立てる。

 掻き回す。

 何度も。

「ひひ。いひひ。あははあは。はあ、はあ」

 消えろ。消えろ。消えろ。

 終わっちまえ――。



「何なんだ、こいつ」

「笑ってますよね。どう見ても」

 自分の腹をめった刺しにしての自殺。

 これで三件めだ。

 その亡骸はどれも陶然とした、快楽的と言っていいような表情を浮かべていた。

「痛くねえのかよ」



「痛くないんです」

 宿のない村に、急ごしらえで用意された宿舎の管理人となった、村人が言う。

「昔からの体質でして。気をつけてないと、知らないうちにどこかを怪我していたりします。今みたいに」

 その村人、安東はそう言いながら自嘲ぎみに笑う。

「大丈夫なのかい」

 一応、捜査員はそう声をかける。

 目線の先で、ぽたりぽたりと安東の指先から落ちる、赤い血の雫。

「ええ、ええ。すみませんほんとに。ちゃんと、拭いておきますから。ええ」

「……そうかい」



 不可解な事実が浮上した。

 だらけきったにやけ顔で同じような死に方をした三人には、もう一つ共通点があった。

 金だ。

 どうやら、彼らには結構な額の臨時収入があったらしい。

 捜査員たちは金の出所を特定に走った。



「あんたたちは何をしたんだ」

「盗みに、入りました」

「どこへ?」

「山の奥の、古い墓です。先日死んだ古谷さんの、私有地にある」

「何人で?」

「四人です。でも、もう残ってるのは、私だけです。きっと、きっと私も……」

「落ち着いてください。安東さん」



 検死の報告書が、ようやく上がってきた。

「よく分からねえ」

「今まで死亡した三人の内臓の表面に、同様の病変が確認されたんです。組織を採取して調べてみたところ、線虫のコロニーだったみたいですね」

「線虫?」

「まあ、寄生虫ですね」

「寄生されると死にたくなるような虫が居るのか?」

「線虫の種類については、まだ同定中です。もしかしたら新種かもしれません」

「……そうかい」



 四人めの死者が出た。

 安東ではない。その妻だ。

 内臓からは例の線虫が見つかった。

 安東の取り乱しようは酷いものだった。

 先天性無痛無汗症。

 生まれつき痛みも寒暖も感じない奇病の持ち主だが、心の痛みは別だ。



 捜査員の宿舎は変更された。

 しかし、遅かった。

 腹の中でざわざわと虫が蠢く。

 臓物が、痒くてたまらない。

 痒い。

 痒い。

 痒い……。

 捜査員は包丁の柄に、すがりついた。



 静かな夜だった。

 人々は死んでいく。

 終わりという名の救いに、解放の笑みを浮かべて。

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