掌編集1 奇想カタログ
石屋 秀晴
狂死連鎖
突き立てる。
掻き回す。
何度も。
「ひひ。いひひ。あははあは。はあ、はあ」
消えろ。消えろ。消えろ。
終わっちまえ――。
■
「何なんだ、こいつ」
「笑ってますよね。どう見ても」
自分の腹をめった刺しにしての自殺。
これで三件めだ。
その亡骸はどれも陶然とした、快楽的と言っていいような表情を浮かべていた。
「痛くねえのかよ」
■
「痛くないんです」
宿のない村に、急ごしらえで用意された宿舎の管理人となった、村人が言う。
「昔からの体質でして。気をつけてないと、知らないうちにどこかを怪我していたりします。今みたいに」
その村人、安東はそう言いながら自嘲ぎみに笑う。
「大丈夫なのかい」
一応、捜査員はそう声をかける。
目線の先で、ぽたりぽたりと安東の指先から落ちる、赤い血の雫。
「ええ、ええ。すみませんほんとに。ちゃんと、拭いておきますから。ええ」
「……そうかい」
■
不可解な事実が浮上した。
だらけきったにやけ顔で同じような死に方をした三人には、もう一つ共通点があった。
金だ。
どうやら、彼らには結構な額の臨時収入があったらしい。
捜査員たちは金の出所を特定に走った。
■
「あんたたちは何をしたんだ」
「盗みに、入りました」
「どこへ?」
「山の奥の、古い墓です。先日死んだ古谷さんの、私有地にある」
「何人で?」
「四人です。でも、もう残ってるのは、私だけです。きっと、きっと私も……」
「落ち着いてください。安東さん」
■
検死の報告書が、ようやく上がってきた。
「よく分からねえ」
「今まで死亡した三人の内臓の表面に、同様の病変が確認されたんです。組織を採取して調べてみたところ、線虫のコロニーだったみたいですね」
「線虫?」
「まあ、寄生虫ですね」
「寄生されると死にたくなるような虫が居るのか?」
「線虫の種類については、まだ同定中です。もしかしたら新種かもしれません」
「……そうかい」
■
四人めの死者が出た。
安東ではない。その妻だ。
内臓からは例の線虫が見つかった。
安東の取り乱しようは酷いものだった。
先天性無痛無汗症。
生まれつき痛みも寒暖も感じない奇病の持ち主だが、心の痛みは別だ。
■
捜査員の宿舎は変更された。
しかし、遅かった。
腹の中でざわざわと虫が蠢く。
臓物が、痒くてたまらない。
痒い。
痒い。
痒い……。
捜査員は包丁の柄に、すがりついた。
■
静かな夜だった。
人々は死んでいく。
終わりという名の救いに、解放の笑みを浮かべて。
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