第一歩(彼女の場合)

 彼と並んで歩くのは心地がよかった。

横目に彼を眺める。

彼は顔がいいこと以外掴み所のない人だと思った。


 「僕の部屋だけど、大丈夫?今日は自分の家に帰る?」

彼は聞いた。

あんな場所には帰りたくなかった。

「かまいません。誰も心配なんてしてないですから。」

彼は何とも言えない顔をした。

家に彼の家族でもいるのだろうか。

ふと思った。


 部屋はきれいに片付けられていた。

むしろ、片付けられすぎていた。生活感がないのだ。

彼はまっすぐにある部屋に入っていった。


 「おいで。」

彼が私を呼ぶ。

入った部屋は人々が女の子の部屋と聞いて想像するような部屋だった。

ピンクを基調としたレース、リボンのあふれる部屋。

彼の家には似つかわしくない、そんな部屋。

「どなたのお部屋なのですか?」

気になって聞いてみる。

彼はタンスを開けながらいった。


 「母親の部屋だよ。」

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