第十七章 四竜乱舞編

295.物資-Supplies-

1991年7月21日(日)PM:17:24 中央区人工迷宮地下二階


「やけに到着はえぇんじゃねぇのか?」


 9.65mm拳銃を手に持つ刀間 刃(トウマ ジン)。

 隣に立っている有賀 侑子(アリガ ユウコ)。

 彼女に視線を向けた。


 二人の視線の先に見える光景。

 補給物資が運ばれている。

 刃が持っているのは、その物資の一つだ。


「とりあえずの第一陣見たいよ。二十六日に、残りが輸送されてくるみたい」


「ふーん」


「今日のは退役した武装や、退役予定の武装がほとんどね」


「それでこれか」


「ないよりは、ましでしょ?」


 侑子の言葉に、微妙な表情の刃。


「リボルバーだからなぁ? 動きの早いあいつ等に、接近戦で撃ち尽くしたら、弾込めなおす時間ねぇだろ?」


 彼の言葉に、侑子は苦笑するしかない。


「まぁ、そうなったら大人しく刀(コイツ)で、戦うけどよ。それで後何が来てんだ?」


 刃の何気ない質問。

 手に持っているリストを確認する侑子。


「トムソンにカービン銃とロクニーが少し。後は松笠とかもあるみたいね?」


 彼女の口から飛び出す単語に首を傾げる刃。


「カービン銃はまだなんとなくわかるけどよ。俺はお前と違って根っ子からの隊員じゃねぇんだ。愛称か通称かで呼ばれても全部はわからんぞ。こないだも話しで何か出てた気がするけどよ」


「ごめんごめん。ついね。トムソンは11.4mm短機関銃M1A1で、カービン銃はM1騎銃ね。62式7.62mm機関銃がロクニー、松笠はMK2破片手榴弾」


 刃はそれでも若干難しい顔だ。


「種類ぐらいはわかるが、正式名称聞かされてもピンとこねぇや」


「まぁ、私達は立ち位置特殊だから。しょうがない面もあるのかな?」


「そもそも、よくこんな街中に輸送なんて許可下りたもんだわ。それで、早速試し撃ちするのか?」


「一応、整備状況確認してからかな? 数は少ないから、明日からは開始出来るでしょうし。後日来るのは整備した上で、輸送してくれるみたいだしね」


「整備されてないのかよ?」


「されてるとは思う。でも、念の為ね」


「そうかよ。それじゃ、確認ともしかしたら整備が終わるまでは、俺達第三小隊は、奴等が出入口から現れないように、警備に専念しておきますわ」


「よろしくね。私の小隊は輸送してくれたあの人達と協力してするから」


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1991年7月21日(日)PM:20:32 南区特殊技術隊第四師団庁舎三階


「第一次輸送任務完了しました」


「ご苦労」


 作業服を着用した四人。

 そのうち、先頭の角刈りの男の報告。

 じっと聞いていた後藤 正嗣(ゴトウ マサツグ)。

 書類を記入する手を止めている。

 彼は、書類に向けていた頭を上げた。


「爪 鰐羅(ソウ ガクラ)一尉。補給は大事だとは言え、このような命令を実行させてすまぬな」


「いえ。規模を縮小された我等です。現状全て自分達の手で行わなければなりません。ゆえにこれも職務と思っております」


「そうか。そう言ってもらえるとありがたい」


 微笑む後藤と、生真面目な表情のままの鰐羅。


「第二次は二十六日予定だ。十一時到着を予定しているが、詳細は追って連絡する」


「かしこまりました。それでは失礼します」


 敬礼した鰐羅が退室していく。

 他の三人も彼に従うように敬礼をして退室した。

 彼等が退室して、再び手を動かし始めた後藤。

 しばらくすると一人の男が入ってきた。


「よくこんな早く動かせたものだな?」


 灰髪で右眼を髪の毛で隠している男が入ってきた。


「九十九からの報告か?」


「んだな。伝二ちゃんは、例の研究所に入り浸りのようだ。今の所動く気配はないってさ。たぶん最終調整でもしてるんじゃねーの?」


「そうか。まぁ、退役もしくは退役予定装備が大半だからな。もっとも、上層部の協力者には掛け合ったから、余裕があるぶんをこっちに回してくれるそうだ。実際にはあの男も伝二の協力者ではあるが。まぁ、予定の日まで、ばれなければ問題ない。万が一ばれたとしても、その頃には私はここにはいないから問題あるまい」


「こっちの思惑はばれてなさげなのかな?」


「うむ。伝二は俺の事は体のいい駒としか思ってないだろうさ」


「ならいいけど。注意は怠らない方がいいと思うよ」


「そうだな。忠言ありがたく、心に留めておこう」


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1991年7月22日(月)AM:11:23 中央区人工迷宮地下二階


「実弾でも問題ない事はわかったわね」


 侑子の発言に皆同意見のようだ。

 その場にいる全員が頷いた。


「特に頭と胸の間? 首になるのか? 虫のことなんぞ、良く知らないけどよ。有賀の言う通り、そこが一番装甲薄いみてぇだな。だがよ、俺の気のせいか? 何かでかい個体ばかり残ってる気がするんだけどよ?」


 刃の疑問に、侑子が再び答えた。


「蟷螂達(アイツラ)が、私達の知っている蟷螂と同様の習性と考えたらだけど、自分より小さくて動くものを餌とする習性があるようだから、共食いしたんじゃないかな?」


「共食いかよ?」


 思わず想像してしまった刃。

 苦い表情になっている。


「虫の考える事は理解出来んな」


 久遠時 貞克(クオンジ サダカツ)も、厳しい顔だ。


「それじゃ、作戦の説明を行うけどいい?」


 周囲いる全員に、視線を順々に向ける侑子。

 全員が頷いた事を確認。

 その上で、作戦の説明を始めた。


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1991年7月23日(火)AM:8:45 中央区人工迷宮地下三階


「名付けて蟷螂蹂躙戦ってところか? ぶっつけ本番ってのが中々あれだが」


「文句言ってないで、真面目にやらなきゃめっだよ」


 文句とも判断出来る刃の言葉。

 野流間(ノルマ) ルシアは真面目な顔だ。

 嗜めるのではなく、突っ込んだ。


「まぁ、作戦の骨子はわかるけどよ。そううまくいくのか? 十二人を警備に回すのはしょうがないとして、残り三十六人と俺達第一小隊とおまけ二人」


「おまけですいませんね」


 おちゃらけてるような言い方。

 相模原 幡(サガミハラ ハタ)は刃を見た。


「刃、終わったら後でトイレな」


 笑い顔の貞克だが、目が笑っていない。

 威圧的な視線で刃を睨んだ。


「いや、ほんの冗談だろ? 本気にすんなよ?」


「二人一班で、十八班。この階も確認した限りでは碁盤の目状で、直進出来る通路は二十」


「足りないから、村越さんと漣ちゃんが、残りの二つを一人で抑えるんでしょ。おまけふた・・じゃなくて、貞克さんと幡さんが、村越さんと漣さんのサポートをメイン。私達が他の場所の十八班をサポートするんでしょ?」


「ルシアさんにまでおまけとか思われてる」


 悲しみの表情の幡と、溜息を付く貞克。


「あぁもう、刃のせいよ」


「知らねぇよ?」


「後、私達第一小隊は縦道と交差する横道に到着する度に、蟷螂(アイツラ)がいないかの確認。円滑良く進める鍵は、私達なのよ」


「もちろん、そんなこたぁわーってるよ」


『あぁあぁ、こちら本部。マルキューマルマルより作戦開始する。現在の状況を報告せよ。繰り返す、マルキューマルマルより作戦開始する。現在の状況を報告せよ。どうぞ』


 本部の侑子からの無線通信。

 終わると同時に、続々と各班から報告が上がっていく。

 その報告の声が無線から聞こえてきていた。


「ルシア、報告はまかせたわ」


 面倒そうな表情になったルシア。

 立ち上がった刃は気にしない。

 立て掛けてあった刀を腰に差した。

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