213.突入-Plunge-

1991年7月12日(金)PM:13:26 中央区精霊学園札幌校小等部二階


 昼食を食べ終わり、片付けた後に雑談している四人。

 スーツ姿の女性は形藁 桂(ナリワラ カツラ)。

 三つ編みポニーテールに童顔の彼女。

 実は小等部の先生の一人だ。


 彼女と同席している他の三人。

 学園の制服に身を包んでいる。

 彼女の隣の形藁 楓(ナリワラ カエデ)は桂の娘の一人。

 縦ロールで大人びた雰囲気だ。


 彼女達の迎えに座って微笑んでいる二人。

 形藁 勲(ナリワラ イサム)と形藁 樹(ナリワラ イツキ)。

 勲は黒髪を刈り上げにしている。

 隣の樹はストレートの髪に段差をつけてレイヤーにしていた。

 楓は小等部六年、樹と勲は小等部四年に在籍している。

 精霊学園札幌校の生徒だ。


「ママはそろそろ戻らないと。楓、二人をお願いね」


「わかってる。ママ、あの人との事は、ママが決めればいいと思うよ。私達三人は大丈夫だからさ」


 桂に真剣な眼差しを向けた楓。

 勲と樹も真面目な表情で頷いた。


「わかったわ。ありがとね。勲と樹もまた後でね」


「うん、ママがんば」


「樹も我慢するから」


「ごめんね。ありがと」


 立ち上がった桂。

 順番に三人の頭を撫でていく。

 最後に樹の頭を撫でた桂。

 彼女は名残惜しそうにその場を後にした。


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1991年7月12日(金)PM:13:31 豊平区南七条米里通


 水車町を通過し、真っ直ぐ進む三井 龍人(ミツイ タツヒト)。

 右折して中の島通に入った。

 しばらく直進した後に左折。

 数台のパトカーが見えた。


 手遅れという予感。

 残念ながら当たったらしいと理解する。

 それでも車を近づけて、笠柿 大二郎(カサガキ ダイジロウ)を探した。


 スーツ姿の男と話しをしている笠柿。

 龍人に気付き歩いてくる。

 彼のその表情から聞くまでもない。

 遅かった事を理解した。


 それでも停車させた。

 車を降りた龍人。

 笠柿に確認する為に歩き出した。


「呼び出して悪かったな。残念ながら遅かったようだ」


「そうか」


「それともう一つ、かなり酷い有様だが、お前に見てもらいたい物がある」


「見てもらいたい物?」


 怪訝な表情になる龍人。


「口では説明が難しい」


「わかった」


 笠柿に案内されるまま歩く龍人。

 途中笠柿が、スーツ姿の男に許可を取っていた。

 彼らはどうやら、龍人の存在を疎ましく思っているようだ。


 被害者の住んでいたアパート。

 部屋の中の居間に進む。

 そこには害者と思しき女性の遺体があった。


 半裸の状態。

 顔や上半身が滅多刺しだった。

 強姦された痕跡も見えている。


 笠柿は居間を通り越した。

 寝室らしきところに入っていく。

 龍人も彼の後に続いた。

 寝室らしきところに入る。


 そこで龍人の目に飛び込んできたもの。

 何かの生き物が、内側から破裂したようだ。

 周囲に飛び散っていた。

 寝室の状況に、絶句する龍人。

 過去に同じような光景を見た事があったのだ。


「どうしてこうなったかわかるか?」


 口元をスーツの裾で押さえている笠柿。

 少しくぐもった声になっている。  龍人も同じようにしていた。

 口元をスーツの裾で押さえながら答える。


「同じ状況なのかは断言出来ないが、ある科学者の実験施設で似たような物を見た事がある。これは誰だ?」


「鑑識待ちだが、散らばっている遺留品からたぶんホシだ。それである科学者って?」


「資料が事務所にあるはずだから、見つけたら連絡する。口で説明するより資料見た方がいい」


「わかった。なるべく早くな」


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1991年7月12日(金)PM:14:01 中央区人工迷宮地下二階


「さていよいよ突入だな」


 迷彩服で銃火器を装備している一団。

 その場にいるのは総計で二十四名。

 そのうち十二名が地下三階へ向かう。

 残りの十二名が出入口の警護になる。

 突入組の先頭に立つ三人。

 防衛省特殊技術隊第四師団第三小隊の面々だ。


「さて、お前ら、俺達は突入組だが、まずは地下三階の状況偵察なだけだからな。あまり頑張り過ぎるなよ」


 そう言ったのは、刀間 刃(トウマ ジン)。

 ぽっかりと空いている空間。

 下へ降りる階段に足を踏み入れる。


 浅黒い肌に細い目を更に細めている。

 黒髪リーゼントの、先っぽが下向きに尖っている部分。

 時折視線を向けていた。


 左手には短機関銃を持っている。

 右手は何も持っていない。

 腰に差してる刀をいつでも抜刀出来るようにだ。

 すぐ後ろを歩いているメンバー。

 そのヘッドライトの光源がある。

 なので、問題なく歩いていた。


 背後は野流間(ノルマ) ルシア。

 彼女の後ろが鎗座波 傑(ヤリザワ スグル)。

 丸沢 智樹(マルサワ トモキ)の順に歩いている。


 彼女達が前衛。

 その後ろに、残りの九名が着いてきている形だ。

 階段を下り、広い部屋にでる一行。

 一定の間隔で光源がある。


「ヘッドライトいらなかったな」


「あぁ、もう髪がぺたんとしてるじゃないか」


「刃だけずるい」


 三者三様で思った事を口にする。


「まぁ、俺らしか見てないんだから気にするな。とりあえず直線で分岐はなさそうだな。一斑は左側前衛、二班は一斑の援護。右前衛が三班。四班はその援護だ」


 刃の指示により、それぞれが行動を開始する。

 一斑は刃を先頭に進む。

 二班のルシアが少し離れた後方を歩く。

 同じように三班は傑が、四班は智樹が管轄するのだ。


 三班と四班がマッピングしながら進んでいる。

 なので、一斑と二班はその速度にあわせていた。

 その為、進行速度はかなり遅い。


 五分程進んだ一団。

 微かに何かが動くような音。

 全員の耳に飛び込んできた。

 ハンドシグナルで停止を指示する刃。

 この場にいる全員に緊張が走った。


 正面から何かが近づいてくるのが音でわかる。

 音の発生源は明らかに複数だ。

 前衛部隊は、それぞれが手に持っている短機関銃を構えている。

 刃もいつでもハンドシグナルで支持を出せるように待機。


 彼らの視界に現れたの存在。

 二メートルはあろうかという赤色の蟷螂の群れ。

 蟷螂達も警戒しているようだ。

 ゆっくり近づいてくる。

 そしてお互いの距離が五メートル程になった。

 静観していた刃が発砲の許可をだす。


 短機関銃からばら撒かれる弾丸。

 次々と蟷螂の群れに穴を開けていく。

 刃も手に持っている短機関銃の弾をばらまいた。


 次々に駆逐されていく蟷螂。

 不利とみたのか蟷螂の生き残りは撤退していった。

 発砲を停止させた上で刃はルシアに顔を向ける。


「ルシア、あれは何だ?」


 刃の言葉に、ルシアの左の瞳が青から黄色に変化していく。

 同時にうっすらと目に紋様が現れる。

 彼女の左目に宿る魔眼、鑑定眼を発動させたのだ。

 発動後、床に倒れている赤色の蟷螂を見るルシア。


「銅鎧蟷螂(カッパーアーマーマンティス)という種類。体表が赤色なのは、銅の甲殻に覆われているからみたいね」


「わかった。さんきゅ。四班、無線で上に報告。二班と三班は周囲を警戒。一班は撃ち洩らしがないか確認」


 指示を出した刃。

 撃ち洩らした蟷螂がいないか確認していく。


「試作の段階とは言え、このスネークサーペントⅠは中々いい威力してんな」


「凄いですよね。あんなに貫通力があるとは思いませんでした」


 独り言のつもりだった刃。

 だが、近くにいた一斑。

 その中の一人から反応が返ってきた。


「私達は魔力の基本的なコントロールしか出来ませんが、それでもあの威力なんです。特殊技術隊専用に調整すれば、もっと威力が上がるんでしょうね」


 反応が返ってきた。

 その為、少しだけ恥ずかしい気持ちになる刃。


「そうだな。これでまだ試作の段階なんだもんな。そのうち俺達はお払い箱になったりして」


「さすがにそれは無いと思いますよ」


 二人は顔を見合わせて、どちらからともなく笑い出した。

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