第十一章 学園開始編

178.獣人-Therianthrope-

1991年7月2日(火)AM:8:01 中央区精霊学園札幌校東中通


 手に学生鞄を持っている三人。

 私服姿で歩いている。

 十二紋 柚香(ジュウニモン ユズカ)と銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。

 二人挟まれて歩いている三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 朝から彼は憂鬱な表情だ。


「義彦兄様、何でそんな憂鬱な表情しているんですか?」


「誰のせいだと・・・」


「私と吹雪ちゃんは、朝起こしにいっただけですよ」


「だからといって、朝六時に来るか? 寝てるっての」


「だってそうじゃないと、朝一緒に御飯食べれないじゃない?」


 そんな遣り取りを続けている三人。

 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)と中里 愛菜(ナカサト マナ)。

 二人が少し後ろで、笑いを噛み殺している。


 一緒に登校しているのは雪乃下 嚇(ユキノシタ カク)。

 隣には雪乃下 巫(ユキノシタ ミコ)もいる。

 側にいる土御門 鬼威(ツチミカド キイ)が巫に微笑んだ。


 苦笑顔の土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。

 土御門 鬼穂(ツチミカド キホ)が、話しを聞いている。

 うんうんと頷いたミオ・ステシャン=ペワク。

 マテア・パルニャン=オクオも聞き耳を立てていた。


 後ろ歩きで歩いてきた人物。

 悠斗とぶつかる。

 彼は、倒れそうになった相手を咄嗟に支えた。


「あ、ごめんなさいにありがとって君は」


 彼女は悠斗と同じクラスの桃髪の少女だった。


「珊瑚、後ろ歩きなんてするから。確か桐原さんだっけ? ごめんね」


「いえ、気にしなくていいですよ」


「桐原さん、ありがとね。私は踝 珊瑚(クルブシ サンゴ)、彼女は幼馴染の踵 黄緑(キビス キミドリ)、あそこの不良みたいなのが錨 乱瑚(イカリ ランゴ)って言うの」


「自分から話しかけられないからって、うちらの姫を救った英雄さんの一人にぶつかって、切っ掛けをつくろうなんて策士ね」


「黄緑、ちょ? ちがっ!? そんなつもりじゃ? 事故だぅってば? アクシデントだよ」


「珊瑚に黄緑、何してんだ? ちっ、先いくわ」


「ちょ? 乱瑚待ちなさいよ?」


 悠斗を一度見た乱瑚。

 不機嫌そうに一人歩いていった。


「感じ悪くてごめんねぇ」


「いや、いいですけど。姫って? 伊麻奈ちゃんの事ですか?」


「そうそう。可憐で食べちゃたい位可愛いよね」


「珊瑚、食べるな」


 黄緑のチョップが、珊瑚の額を軽く叩く。


「いたーいよ。黄緑がいじめるぅ」


 二人の遣り取りに唖然としている愛菜。


「とりあえず行きませんか?」


 悠斗の言葉に、止まっていた足を動かしだす。

 歩きながら、その場にいる面々が珊瑚と黄緑に絡み始めた。


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1991年7月2日(火)AM:8:29 中央区精霊学園札幌校中等部三階


 教室に入ってきた担任の山中 惠理香(ヤマナカ エリカ)。

 その手には沢山のプリント。

 プリントの束を教壇に置いた惠理香。


 起立、礼、着席の号令。

 その場で声に合わせて席を立つ。

 一礼した後に、生徒達は再び席に座った。


「皆、おはよう。本格的な授業は昨日も言ったとおり、明日からになるから。今日は昨日に引き続き、学園とかの説明と、今後いろいろと決めるべき事を話したいと思います」


 プリントの束のうちの最初の二束。

 手に取った惠理香は配っていく。


「まずは日直についてね。明日から日直よろしくなんだけど、男子生徒三人女子生徒十九人なので、一周目は二枚目見ればわかるけど、出席番号順に割り振りました。明日は錨君と銅郷ちゃんね」


 生真面目に頷く銅郷 杏(アカサト アン)。

 乱瑚は、少し面倒臭そうな顔をしている。


「プリントに日直の仕事内容は書いてあるから、ちゃんと読んで頂戴ね。日直は八時二十五分までには、二人で私の所に来るんだよ。特別な事情がない限りは、どっちかが欠けた場合は、次の日も日直してもらいます。連帯責任ね」


 生徒全員が話しを聞いているのを確認した惠理香。


「今日は身体測定と、事前に記載してもらっている情報を元に、能力測定を行います。能力測定の結果は、事前にも許諾を貰っている通り、EETRというランキングに登録されます。EETRについては別途詳しく説明する時間を設けるけどね。ランキング上位者は、機密情報とかにもアクセス出来るそうよ」


「先生も登録されてるんですか?」


 何気なく放った珊瑚の質問。

 惠理香はにっこりと微笑んだ。


「もちろん登録されてるわよ。でも順位は秘密」


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1991年7月2日(火)AM:10:44 中央区精霊学園札幌校時計塔五階


 椅子に座っている古川 美咲(フルカワ ミサキ)。

 受話器を耳に当てている。

 机の上には様々な書類が置かれていた。


「あぁ、忙殺されて当分そっちはまかせっきりになると思う」


 受話器を右手に持っている彼女。

 左手でボールペンをくるくると回している。


「スロベニアとクロアチアか。どっちかが長引けば、夜魔族(ヤマゾク)等も影響を受けるのかもしれない。そこから世界中に影響が伝播しなければいいがな」


 古川は、神妙な顔になっていた。


「あぁ、わかっている。中々予定通りにはいかないものだな」


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1991年7月2日(火)PM:13:31 中央区精霊学園札幌校第一学生寮一階


 僕達は、第一学生寮の生徒は食堂に集合している。

 午前中に学校が終わった。

 だが、十三時半に、各寮の食堂に集合するように言われたのだ。


 集合だけで説明はなし。  何がはじまるのかさっぱりわからない。

 食堂の一角にあるステージ。

 そこに現れたのは、まさかの義彦。


「さて、何で俺がこんな所に立っているのか疑問に思っている人もいるだろう。別に風紀委員としてではないから安心してくれ」


 風紀委員じゃないならなんだろう?


「他の学生寮でも同様の事が行われているはずなのだが、今日集まって貰ったのは、事前に説明しとかないと、驚く人もいるかと思うからだ。皆が知っている通り、今この学園には普通の人間もいれば、鬼人族(キジンゾク)や獣人族(ジュウジンゾク)、中には獣化族(ジュウカゾク)、後は小鬼族(ゴブリンゾク)何てのもいたりする」


 確かに、いろんな人達がいるよな。


「たぶん今後もいろんな種族が増えると思うんだけど。人寄りの姿もいれば逆の場合もある。これから登場する彼女達に驚かないで欲しいのだが、本当驚かないでな」


 何となくだけど言いたい事は理解出来た。


「例えば獣人族(ジュウジンゾク)が獣の血の方が濃く出ると、見た目が人じゃなくなる場合ってのもあるんだ。そんな人達を先に紹介しておきたい。適材適所があるけど、これから学園で生活していると、出会う事になると思うから、驚愕しないでくれな」


 普段の義彦らしからぬ感じだ。

 回りくどいというか濃いというかなんだろ?

 兎に角、そんな感じの説明だと思う。


 そして僕の視界の先に最初に現れた人達。

 二足歩行の猫や犬。

 狐や狼、兎だったり熊らしき姿のもいた。


 周囲には驚きの声や、感激の声。

 唖然としているような声など。

 様々な声が聞こえてくる。


 その中の熊みたいな人。

 義彦と場所を入れ替わるように、前に歩いてきた。

 前に歩いてきた熊みたいな人。

 かなり大柄で白髪白眼。

 姿からは考えられない優しい声が響いた。


「私は袈裟 冷(ケサ ヒヤ)といいます。アルビノなので真っ白ですけど、羆人族(ヒジンゾク)の女性ですよ」


 とても綺麗な白い毛だ。


「私達はこの姿なので、人の世界に溶け込むというのは中々難しいんですよね。中には遊園地とかのマスコットとして生きていく者もいるようですが」


 遊園地のマスコット?

 着ぐるみじゃない人もいるのか!?


「だって街中に突然私がいたら大変な事になるでしょ? 人と同じような胸も、ちゃんとありますけどね。余り多くはないけど、私も後ろにいる仲間達も獣の血が濃くでてしまったんだと思います。これから学園内で出会う事もあると思いますけど、怖がらないでよろしくお願いしますね」


 一礼して彼女は下がった。

 彼女と入れ違うように前に出てきた義彦。


「袈裟さん、ありがとう。まぁ、そんなわけで学園内で遭遇しても怖がらないように。あんまり表に出てくる事はないけど、見かける事はあると思うから。それじゃ、準備は出来ているので、昼食にしようか。左のテーブルから順番にあそこに並んで受け取ってくれ」

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