173.波状-Wavy-

1991年6月29日(土)AM:0:18 中央区精霊学園札幌校第二学生寮男子棟四階四○四号


「わかった。俺は正面から排除する。鬼那、護衛はまかせたぞ」


「かしこまりました」


 部屋を出て行った三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 走って階段を下りていく。

 相手の規模、移動速度がわからない。

 その為、自身の感覚を最大限に研ぎ澄ましていた。


 第一学生寮の男子棟の側。

 競技場に向けて走っていく。

 競技場に到達直前。

 しばらく沈黙していた、ヘッドホンから通信が入った。


『義彦さん、お見苦しい姿をお見せしました。敵は四チーム。南と西からはそれぞれ九名、北から十二名、鬼那さんが撹乱中です。東からは二十四名』


「二十四・・・多いな。それで位置は?」


『高等部北側道路を進行中。移動速度から、推定三分後に角に見えると思われます』


「相手の装備はわかるか?」


『少々お待ち下さい』


 通話している間に、少し速度を緩めた義彦。

 敵との遭遇に備えた。


『銃器等の所持は確認出来ません。全身に鎧のような物を装着しておりますが、通常の防具では無いようです』


「通常の防具ではない? どうゆう事だ?」


『解析しておりますが、時間がかかりそうです。しかしながら、何かの魔力放出を感知しております。注意して下さい』


「わかった。古川所長に連絡は?」


『試みてますが、連絡が取れません』


「そのまま続けろ。敵が見えた。何かわかったら教えてくれ」


『了解しました』


 義彦の目に入ってきたのは十二名。

 どうやら三名で一つチームにしているらしい。

 最も近くにいる三名が、義彦目掛けて突進してきた。


 炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)を鞘に入れたままの義彦。

 納刀したままとは言え、鉄拵えの鞘だ。

 そのままの刀撃でも、骨を折る程度の破壊力はある。

 しかし、相手の腕目掛けて振り下ろした攻撃は、簡単に弾かれた。


 他の二人の拳撃を躱した義彦。

 距離を取りつつ、竜巻を飛ばす。

 手加減はした。

 しかし、まさか簡単に弾かれるとは思わなかった。


 そこに更に別の三人が攻撃をして来る。

 三人の攻撃を躱した義彦。

 また他の三人が攻撃して来た。

 三人一組による、ヒットアンドアウェイによる波状攻撃。


 後続の十二人も攻撃に加わる。

 八組から繰り出される拳打。

 まるで、弄ばれているようだ。


 全員がフルフェイスの兜を被っている。

 その為、相手が誰かはわからない。

 しかし、中々に抜群のチームワークによる攻めだ。


 撤退し始める義彦。

 躱す、いなす、防ぐ。

 相手の連続攻撃。

 徐々に、対応が追いつかなくなってゆく。


『義彦さん、相手の装備がわかりました。機鎧型式神豪壁一号(キガイガタシキガミゴウヘキイチゴウ)です』


 相手の攻撃に、対応するだけで手一杯の義彦。

 ヘッドフォンから聞こえてくる声。

 彼女に反応している余裕は無かった。


 何とか彼女の声に反応しようとした義彦。

 一瞬意識を取られる。

 相手の予想外の連打攻撃に、反応出来なかった。


 相手が繰り出した掌打。

 まともに喰らってしまう。

 そのまま吹き飛ばされてる義彦。

 第一学生寮の外壁に、叩きつけられた。


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1991年6月29日(土)AM:0:22 中央区特殊能力研究所五階


 扉を開けて戻ってきたのは古川 美咲(フルカワ ミサキ)。

 休憩室で後片付けの手伝いをしていた。

 だが、出来る事がなくなったので戻ってきたのだ。


 棚に飾り物のように置いてある通信用の札。

 その一枚が、光っているのに気付いた。

 急いで棚の結界を解除。

 ガラス戸を開けて、札を手に持つ古川。


≪通信(コレスポンド)≫


「学園か? 何かあったのか?」


 通信を接続し声を掛けた古川。


『現在襲撃を受けております。襲撃者の正体は不明ながら、数は五十四。義彦さんと鬼那さんが別々の場所で交戦中。しかし、かなり戦い慣れをしているようで、苦戦を強いられている模様。また機鎧型式神豪壁一号(キガイガタシキガミゴウヘキイチゴウ)を装備しております。ただいまその装備のスペックを検索中』


「援軍を送るが、到着まで時間がかかってしまうか・・・。取り合えずこのまま繋いでいろ」


 通信用の札。

 一度、机の上に置いた古川。

 棚から別の札を手に持った。


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1991年6月29日(土)AM:0:23 中央区精霊学園札幌校西中通


 三人一組、四チームによる攻撃。

 躱し続けている土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。

 ヘッドセットからの通信を聞いている。


 一度距離を取った彼女。

 手に持っている梓弓を構えた。

 風の矢を複数放ち、弾幕を張る。


「距離を取られるな。あの風の矢は突き抜ける事はないと思うが、油断は禁物だ」


 貫通力があり過ぎる風の矢。

 鬼那は何度も威力を調節。

 致命傷を与えないように、調整しつつ放っていた。


 全身甲冑を貫ける威力はある。

 だが、相手を殺してしまうだろう。

 その為、手加減しているのだ。


 彼等の全身甲冑、機鎧型式神豪壁一号(キガイガタシキガミゴウヘキイチゴウ)。

 徐々に傷が増えている。

 更に放った一本の風の矢。

 相手の一人の、足の甲を貫通した。


 同一の全身甲冑。

 そのはずなのだが、傷の付き方には個人差があった。

 しかし、鬼那にはその理由がわからない。


 後退していた鬼那は、突如前方に突進。

 先行して来ていた三チーム。

 彼女の突然の反応に追いつけない。

 後方にいたチームのうちの二人が拳打を放つ。

 一人目はすれすれで躱し、二人目は梓弓で受け流した。


 足の甲の痛みに、その場を動けない最後の一人。

 鬼那は、直ぐ横を通過。

 背面にある出っ張った部分。

 横から至近距離で、すれ違い様に風の矢を放った。


 少し進んだ後に、反転した鬼那。

 風の矢に射抜かれた相手の機鎧型式神豪壁一号(キガイガタシキガミゴウヘキイチゴウ)。

 鬼那の前で突如消失。

 吹き飛ばされて倒れている女性。

 何故か彼女の上半身だけに、鎧が残っていた。


 よくわからない出来事。

 目の前で起きた事実。

 ヘッドフォン越しに、素直に伝えた鬼那。


 残り十一名と、再び交戦状態に入る。

 そのうちの三名の全身甲冑。

 突如上半身だけの鎧になった。

 残り八名が鬼那との戦闘を続ける。

 上半身だけの鎧三名。

 最初に吹き飛ばされた女性に近付いた。

 彼女を連れて、撤退して行く。


 威力を弱めた風の矢で撹乱。

 鬼那は一人また一人と確実に射抜く。

 相手の背中の出っ張り部分を貫いていった。


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1991年6月29日(土)AM:0:27 中央区精霊学園札幌校北中通


「三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。暴走事件の最初の暴走者。貴様は本来であれば隔離されるべき存在。銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)も暴走者ではあるが、彼女は誰も殺めてはいない。しかし、貴様は違う。その手で殺めた。それなのに、最前線で正義を行使している。これは明らかにおかしいのだ」


「ったく、何が言いたいのかわからんが、俺は正義のヒーローになんざなったつもりはないぞ?」


「否、貴様は滅ぼされるべきなのだ。正当防衛等で許されるべきではないのだ。我等監察官は、貴様の存在を許しはしない」


「会話が成立しなさそうだな・・・。っておいおい、監察官って? 何の冗談だ?」


 ヘッドフォンからの報告を聞いている義彦。

 自分に話しかけてくる謎の男とも、会話していた。


「貴様の力はこの程度ではないはずだ。その気になれば我々等容易く抹殺出来るだろう?」


「あんた、一体何がしたいんだ? 意味わかんないぞ」


 男の号令により、再び始まる攻撃。

 気付けば更に九名増えていた。

 再び吹き飛ばされ、道路を転がっていく。


 そこから更に、横に吹き飛ばされた義彦。

 競技場の外壁に激突して地面に落ちた。

 片膝で前を向く。

 目の前には、再び先程の男が立っていた。


「これだけ殴られても、まだ刃を抜かないのか。それでは、貴様の仲間をここに連れて来て血祭りにあげようか」


「そんなに俺の力を見たいのかよ」


 立ち上がった義彦。

 炎纏五号丸(ホノオマトイゴゴウマル)を抜いた。

 瞳が赤黒く変化し、体が赤黒いオーラを纏い始める。


「お前達の目的はよくわからんが、俺を殺すつもりだったのなら時間の掛けすぎだ。お望み通り、相手してやるぜ」

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