146.対面-Meet-

1991年6月11日(火)PM:10:54 中央区特殊能力研究所五階


 ノックされた扉。

 古川 美咲(フルカワ ミサキ)のどうぞの声。

 扉を開けてはいってきたのは土御門 春己(ツチミカド ハルミ)。

 その後ろには、五人の式神もいる。


 今日は五人とも、戦闘時の格好ではない。

 極一般的な服装だった。

 頭に生えている角が見えない。

 その為、一見すれば、普通の少女に見えるだろう。


 土御門 鬼都(ツチミカド キト)。

 彼女だけが、ゴテゴテと装飾品をつけている。

 頭に首、手首足首と着飾っていた。

 その為、五人の中で、一人だけ目立っている。


「春己様、ご足労おかけしてもうしわけありません」


「座したままで失礼ですが、春己様、ご健勝のようでなによりです」


「美咲ちゃん、彩耶ちゃん、そう畏まらなくてもええ。儂も昨日の事は、報告しに来るつもりだったしのぅ」


「はい。ただ、報告を受ける前に、お願いしたい事が」


「霙ちゃんに偶然会ったからのぅ。大方の話しは理解してるつもりじゃ。鎮の馬鹿者めが、儂があれだけ忠告したにも関わらず、まったく」


 そこで春己は、三人と対面するようにソファーに座る。

 白紙 彩耶(シラカミ アヤ)の隣に座った形だ。

 自分達を見ている三人に、優しい眼差しを向けた。


「この娘達かのぅ?」


「はい、左からアンジェラ、カロリーナ、リオネッラです」


「そうか。はじめましてじゃの。この五人は、お主達と同じ式神じゃて、仲良くしてやってくれな」


 きょとんとしている三人。

 五人は優しく微笑みかけている。

 蜘蛛娘三人も、ぎこちなく笑顔で返した。


「それで、儂は、彼女達に一般常識を教えればいいのかの?」


「はい、お願いします」


「それじゃぁ、一時的に寺の方で預かる形にしてかまわない、という事じゃな?」


「はい、問題ありません。七月一日から学園に通わせるつもりなので、あまり時間はありませんが」


「わかった。そうじゃのぅ、鬼都や」


「はい、主様」


「お主に、彼女達の世話を任してもかまわぬかの?」


「かしこまりました」


 彼女の凛とした声が響く。

 鬼都は、ソファーに座っている三人の側まで歩く。


「これからよろしくね」


 優しい声でそう語りかける彼女。

 三人はおずおずと、お願いしますと言葉を返した。


「アンジェラ、カロリーナ、リオネッラ、最初はいろいろと戸惑うかもしれない。だが、経緯はどうあれ、人の世で共に生きる事を選んだのなら、私達の常識を理解しておく事は、プラスになるはずだから」


 古川の言葉に、三人は少し首を傾げ、思案しているようだ。

 しかし、最終的には首を縦に振った。


「春己様、お座りにはならないので?」


 座っていたソファーから立ち上がった春己。

 古川は、思わずそう声をかけてきた。


「儂は構わぬ。お前達、親睦を深める意味もかねて、彩耶さんの隣とかに座って、彼女達と戯れてなさい」


 その彼の言葉に頷いた五人。

 彩耶の左に座った土御門 鬼那(ツチミカド キナ)。

 土御門 鬼穂(ツチミカド キホ)は、右に座った。

 アンジェラとカロリーナ。

 二人の間に座る、土御門 鬼威(ツチミカド キイ)。

 土御門 鬼湯(ツチミカド キユ)はカロリーナとリオネッラの間に入り込んだ。


 古川は、部屋の隅に置いてある折り畳み椅子。

 その中から一つ、手に取った。

 自分のデスクと対面して座れる位置に置く。


「春己様、少し、長い話しになるかもしれません。粗雑な椅子ですが、よければどうぞ」


「美咲ちゃん、すまんの」


 春己は素直に椅子に座った。

 古川も自席に戻る。

 机を挟んで対面する形になった。


「その顔からして、報告を聞く以外にも、何かありそうじゃな?」


「相変わらずですね。お願いしたい事がいろいろありますが、無理ならば無理とおっしゃって下さい」


「かしこまった。それでは一つ一つ聞こうかのぅ」


 彩耶を中心に和気藹々としている近く。

 真面目な顔で、話しを始める二人。


「まず図書館の件です。もし問題が起こった場合、相手が監察官になる可能性が高い。その為、義彦に、学園が始まるまでの間の警備を、明日からお願いしたのです。監察官であれば、相対出来るものも限られてしまう。私か彩耶が行ければいいのですが、生憎そうゆうわけにもいかない。そこでご協力をお願い出来ないかと」


「ふむ。図書館は、儂にとっても必要なものだからのぅ。くだらないゴタゴタで、利用可能になるのが先延ばしになるのは、遠慮願いたい。しかし義彦は学校があるのではないか?」


「その点につきましては、事件の影響で、学校そのものがしばらく休校するようです。いつまで休校するのかまでは、わかりませんが。なので、もし先に休校解除されるようであれば、義彦が抜けて、黒金三姉妹がメインの警備者になるだけです」


「そうか。それならばとりあえずは問題なかろうな。鬼那」


「はい、主様」


 桃色の角の少女が、春己の呼びかけに答えた。


「明日から義彦のサポートを頼んでもいいかのぅ?」


「畏まりました。喜んで」


「美咲ちゃん、期間はいつまでじゃ?」


「予定は六月一杯です」


「だそうじゃ」


「畏まりました」


 彼女はにっこりと微笑んで、再び周囲の話しの輪に戻った。


「所で、それじゃ今は、誰が警備しておるのだ?」


「今は黒金三姉妹です。義彦に警備を変えるのは、学園運営開始後の事も考慮してですね。もちろん、常時休みも無しにさせるわけにはいかないので、定期的に黒金三姉妹と交代はさせますが」


「ふむ。わかった。次を聞く前に、先に儂のお願いを言ってもいいかの?」


「はい。もちろんかまいませんが、何でしょう? 出来る範囲の事であれば、もちろん協力は惜しみません」


「うちの五人の娘達も、学園に通わせたいのじゃ。可能かの?」


「えっ? もちろんそれは構いませんが。もし宜しければ、春己様も教える立場として、来て頂けるとありがたいですね。いかがでしょう?」


「おおそうか? それでは是非お願いしようか」


「畏まりました。お手数ですが、必要な書類等がございますので、それは後程」


「よろしくなんじゃ。それじゃ後は何かの?」


「仕事と言われると、私事になってしまうのですが、当分、後処理と学園の最終準備に追われるのもありまして、茉祐子の護衛兼話し相手を」


「確か、美咲ちゃんが引き取った娘じゃったな」


「はい。こんな事を頼むのは、お恥ずかしいのですが・・」


「いやいや、気にせんでええ。そうゆう事ならそうじゃのぅ。鬼湯」


「はい」


「聞こえていたと思うが、頼んでもかまわぬか?」


「畏まりました。お友達が増えるなら喜んで」


 橙色の角の少女は、満面の笑みでそう言った。


「そうかそうか。頼んじゃぞ」


「もう一つ。似たようなお願いなのですが、中里 愛菜(ナカサト マナ)の護衛です」


「中里・・・前に言ってた娘かの?」


「はい。今後、狙われる可能性が増大すると思いますので」


「そうか。鬼穂、鬼威に頼むとしようかの」


「はい、主様」


「鬼威も承りました」


 そう答えた青い角と紫色の角の二人。

 少しだけ嬉しそうだ。


「他には何かあるかの?」


「はい、これは私も聞いただけの話しなのですが、長谷部 和成(ハセベ カズナリ)が確保された廃ビルで、昨日妙な事があったらしいのです。何か心当たりはないかなと思いまして」


「うむ。その事件も、図書館が現状利用不可なのでな。儂、実は詳しく知らんのじゃよ」


「そうでしたか、それでは後で資料をご覧になりますか?」


「そうじゃな、そうしようかの」


「とりあえずは以上です。それでは、報告をお願いしてもよろしいでしょうか」


「あい、わかった」


 春己は、昨日の事件での行動。

 それを全て、最初から古川に説明を始めた。

 古川は彼の報告を聞きいている。

 時折、疑問点等を細かく確認していった。


 そして、それなりに時間をかけた二人の遣り取り。

 とうとう終わりを告げた。

 休憩がてら、古川のいれたコーヒーを飲む春己。


 彩耶と古川も同じようにコーヒーを飲んでいる。

 他の八人は、途中で彩耶と買いにいってきた、ジュースを飲んでいる。

 そこで春己は、ふと古川に話しかけた。


「黒金三姉妹は、図書館の警備をしてない間はどうするんじゃ?」


「休日と、昨日の一件で、ここから逃げ出した、ある三人の探索ですね。そのうちの一人は、残念ながら元生徒でした」


 そこで少し、沈痛な面持ちの表情になる古川。


「ふむ。暫く離れている間に、いろいろとあったんじゃな」


「はい。人手が足りないのは、立て続けに事件が起きている影響もありますかね」

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