131.爺様-Graybeard-

1991年6月10日(月)PM:13:07 中央区人工迷宮地下一階南ブロック


「これ凄い技術ねぇ?」


 三巳 巴(ミツミ トモエ)はひたすら機械を調べている。

 移動した床は、魔方陣の影響のようだ。

 目には見えない空間で、隔絶されている。


 二人は到着した時にも、衝撃さえ感じなかった。

 実際の下降速度は不明。

 だが、かなりの速度だったはずだ。


「これ作った奴、天才中の天才かもね? いや超才かも!!」


「いや・・巴これ?」


 左に視線を向けた四鐘 白磁(シカネ ハクジ)。

 奧の方の、まさに死屍累々という光景を指差す。

 彼の言葉に、機械から巴はやっと視線を外した。


「先客がやったんでしょう? 遠目だから断言は出来ないけど、ゴブちゃんっぽいね」


「う・うん」


「死体の分布から考えると、先客さんは左の方に行ったって事か」


 巴の言う通りだ。

 彼等の亡骸は魔方陣の床の左側。

 奧の方に更に続いているようだ。


 奥の方ははっきりとは見えない。

 その為、どの程度数があるかは不明。

 だが、二桁はあると思われる。


「それじゃ私達は、右側に行きましょうか」


 巴は白磁の手を少し強めに握る。

 引っ張られる形になった白磁。

 亡骸には極力触れないように足を動かす。


 最初の角に辿り着くと、白磁は歩みを止めた。

 リュックからノートを、胸ポケットからペンを取り出す。

 そしてノートに描きこんでいく。


 巴も彼が何をしているのか、理解しているようだ。

 彼は、魔方陣の床があった場所を基点にした。

 自分の歩数から、おおよその迷宮の地図を記載している。

 描き終わったとみなした巴が口を開いた。


「やっぱり白磁は、私と違って細かい作業得意だよね!」


 嬉しそうに満面の笑みで、白磁を見詰める巴。

 思わず彼は顔を赤らめた。


「そ・そんな事ないよ」


「うんうん、恥ずかしがってる白磁も可愛い。じゃ行こっか」


 進む方向は巴が決める。

 角に辿り着く度に、白磁が記載してゆく。

 巴は白磁が描き終わった直後以外は、一切口を開かない。


 彼は移動しながら歩数をカウントしている。

 なので邪魔しない為の配慮だ。

 そして何度目かの角を曲がった白磁と巴。


 通路の先にいる、醜小鬼(アグリゴブリン)の群れに遭遇した。

 その数は二十程。

 二人は即座に持っている鞄から、何かを取り出す。


 人間二人に気付いた彼等。

 何も考えないで突っ込んできた。


「白磁からどうぞ」


 白磁が手に持っている物体。

 半分のサイズにしたような、ロケットランチャーのようなもの。

 肩に構え、両手で支えてる。

 一番手前のに、照準を合わせてトリガーを引いた。


 発射されたのは、ロケット弾ではない。

 黒い球が飛んでいく。

 手前の両手剣を持った醜小鬼(アグリゴブリン)を、吹き飛ばした。

 着弾と同時に、黒い球から放出されるエネルギー。


 吹き飛ばされ、黒い球が減り込んだ醜小鬼(アグリゴブリン)。

 彼を中心に、円状の範囲に周囲を巻き込んで、床に押し付ける。

 影響を受けてるのは、中心から円状に半径五メートル範囲といった所だろう。


 身動きの出来ない彼らの体。

 徐々に潰されていき絶命していった。

 それだけのエネルギーにも関わらず、迷宮の壁の強度は相当だ。

 特に影響はないように見える。


 その威力に驚きの顔の巴。

 苦笑しつつ、白磁が話しかける。


「桜田が自慢するだけ、あって威力は凄いね」


「う・・うん、凄い!! 桜田やるじゃないの! グラビティハンマーガンだっけ?」


「そんな名前だったと思う」


 突っ込んでくる彼ら。

 十体程倒した所で、効力がきれたようだ。


「一発しか撃てないし、効果時間が短いのが問題かも」


 白磁はグラビティーハンマーガンをリュックに戻した。

 そしてまた、違うのを取り出す。


 残った十体。

 仲間を殺されたショックなのかはわからない。

 だが、雄たけびを上げて突っ込んできた。


「次は私の番ね」


 巴の手に握られているのは二本の棒。

 黒と白の二色にわかれている。

 黒い部分を握っている彼女。

 突如白い部分が、徐々に赤に変わり始めた。


 斧を振り上げてきた醜小鬼(アグリゴブリン)。

 その斧を、打ち払うように左手の棒で弾く。

 棒に触れたところから、斧は融けていた。


 更に右手の棒で、横薙ぎに首を薙ぎ払う。

 首の前面が炭化。

 呻き声さえもあげれない。

 その場に倒れ付した。


 科学者とは思えない動きで、次々に圧倒していく巴。

 白磁は何するでもなくそれを見ている。

 そこに一体が突進して来た。

 棍棒と盾を持っている。


 白磁が装備したのは、先っぽが円錐型になっている。

 形状のおかしなナックル。

 そのナックルを盾に突き立てる。

 すると、突きたてた場所を中心に変化が起こる。

 圧縮されるかのように、ひび割れが入った。


 更に左手で相手の顎にアッパーを喰らわせた白磁。

 すると彼の顎も、ナックルが触れた場所を基点に拉げる。

 打撃の衝突地点を中心に、極小範囲に超重力を発生させているのだ。


 白磁と巴が利用している武器。

 科学と魔学の融合により出来上がったものだ。

 試作の段階の為、問題点は様々ある。


 問題点を理解しておく必要はある。

 だが、そこさえクリアすれば、武器として使用する事も可能だ。

 もちろん、都合よくそんなものが、たくさんあるわけではない。

 なので、戦闘継続時間が、限られてしまうのが難点だ。


 最後の一体。

 棒を左だけに持ち直した巴。

 距離を取り、鞄の側に戻った彼女。

 その中から、拳銃とクロスボウを合体させたような物を取り出す。


 狙いを定めて、最後の一体に射出された炎を纏ったボルト。

 胸に突き刺さり、焼き焦がして貫通。

 更に迷宮の奧を照らしながら飛んでいった。

 そしてとうとう床に落ち、しばらくして火は消える。


「思ったより火消えるの早かったなぁ」


「あいかわらず物騒なもん拵えておるのぅ」


 突然の声に背後を振り向く二人。

 そこには半透明の、橙色に光る小さめの蜻蛉。


「薄橙色の蜻蛉!? でもなんで半透明!?」


 驚くところがずれている白磁。


「白磁、驚くところそこ? 話しをする蜻蛉に何とも思わ・・ないか。声から察するに、春己の爺様じゃないの? 何で蜻蛉なのかわかんないけど」


「巴ちゃんはあいかわらずじゃのぅ」


「そもそも何でここにいるのよ? それも蜻蛉姿? これがあれ? 式神って奴!?」


「そうか、巴は見るのはじめてじゃったかのぅ? その様子だと、白磁も誰か気付いてないようじゃのぅ? お前さんもよく知っているのに、可哀想じゃて」


「え? 知ってる!? 春己様の声だとして、言ってる意味がわからないよ」


 理解出来ずに困惑する白磁。


「考えてみるのじゃな」


「だから何でここにいるのよ?」


 若干イライラしてきた巴の声。

 そのイライラには、白磁をからかわれている。

 というのも、含まれていそうだ。


「美咲ちゃんに頼まれたのじゃ。有事の際の協力をじゃな。ここでお主達に会うとはおもわなんだが。まぁ丁度良いな。お主達は一度撤退せい。地上に義彦達も向っておるのじゃが、重傷者がいてのぅ。おそらく車で来てるじゃろうて、元魏ん所へ運んでもらえんか?」


「いやですって言いたい所だけど、今日の所は引き受けてあげる。その代わり、今度こそ勝負受けてもらうんだからね!?」


「しょうがないのぅ。今回の事が終わったら、いつでも来るがよい」


「絶対今度こそぶちのめしてやるんだから!?」


「楽しみにしちょるよ。それじゃま、よろしくなんじゃぞ。儂はこのまま先がどうなってるか見てくるんでな。この状態って結構疲れるからのぅ、早く終わらせたいのじゃ」


 土御門 春己(ツチミカド ハルミ)の声で話す蜻蛉。

 かなりの速度で奧に消えて行った。


「でも巴いいの?」


「いいのよ。とりあえず実戦での利用は出来たしね」


「でも僕達なら、無くても進めるでしょ?」


「それでもいいの。そもそも、春己の爺様がいるなら、私達が暴れる必要もないでしょ」


「うん、確かにそうだね。暴れる必要もないか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る