100.眼帯-Eyepatch-

1991年6月10日(月)PM:12:10 中央区西七丁目通


 私は、エルメントラウト・ブルーメンタール。

 【獣乃牙(ビーストファング)】団員なのでございます。

 標的は銀髪白肌の美少女。

 彼女は覚醒者の一人との事でございます。

 今から戦うのが、ウキウキワクワクでドキドキでございます。


 私の目的は彼女を行動不能にする事。

 私は兄みたいな獣化は出来ません。

 なのにこんな重要な役を仰せつかり恐縮です。


 私達は十年前に、日本の東京で両親と仲間をたくさん失いました。

 でも今私達が生きていられるのは、団長のおかげ。

 両親の復讐の最初の一歩。

 団長直々の任務。

 失敗は許されないのでございます。


 標的は、復讐相手の一人、【殺戮の言霊乙女】の生徒。

 もう一人、【破壊の踊刃乙女】。

 彼女もこの街にいるのが、確認されております。


 団長は様々な事を教えてくれました。

 それぞれの特性に応じた戦い方。

 一般教養や、英語や日本語などの語学。

 おかげである程度は、一人でも生きていける自信はあります。


 学校の校舎が見えてまいりました。

 ここに標的の少女がいるのですね。

 気合を入れて戦うのでございます。


 エルメの視界。

 そこにはグラウンドと校舎が見えている。

 彼女は校門に向かって、真っ直ぐ歩いていった。


 この中学校に通っている銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)。

 エルメの存在等、知る訳が無い。

 彼女は今日も、いつも通り授業を受けている。

 生真面目過ぎて、眠そうになる程に退屈な理科の先生。

 その授業が続いていた。


 私は、微かに流れる川の音を聞いている。

 授業そっちのけで、考え事をしていた。

 先程感じた違和感についてだ。


 何かの結界のような物が展開されたんだと思う。

 でも、何の為だろう?

 考えても無駄か。


 ここの夏用の制服。

 白のブラウスに藍色の上下。

 下はスカート。

 首元に藍色のリボン。

 ワンポイントみたいな感じになっている。


 三井兄様に褒められた。

 というのもあるかもしれない。

 けど、私も個人的に嫌いじゃない。


 授業中にも関わらず、ノックも何もなし。

 女の先生が教室に入ってきた。

 教室で授業をしていた、理科の先生に何か伝えているみたい。

 だけど、話しを伝えてる方も、聞いている方も半信半疑な感じ。


 その時だった、魔力が放出されたのを感じる。

 その直後に、大きな衝撃音と共に校舎が少し揺れた。


 思わず、私を含めた同級生達が窓に殺到する。

 何があったのかよくわからない。

 だけど、嫌な予感しかしない。


 ふと、グラウンドの方を見ると、一人の女性が立っている。

 窓に殺到した私達を見ているようだ。

 けど、しばらくして、私のいる教室を見ている事に気付いた。

 ずっと私を見ている、気がするのは気のせいかな?


 どんどんこっちに歩いてくる。

 けど、知り合いにあんな人はいないはず?

 うーん、考えてみても、記憶にはないような気がするんだけど。


 そんな事を考えていると、どんどん私の方へ歩いてくる。

 とうとう、窓を挟んで私の前へ辿り着いた。

 私が彼女を見下ろす形になっている。


「銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)さんですね。私の目的はあなたと戦う事でございます。素直に勝負して頂けませんか? もっとも従わない場合はお友達が死ぬ事になるのでございます」


 澄んだ綺麗な声の彼女。

 その声には似合わない。

 物騒極まりない事を私に言ってきた。


 目の前の彼女。

 右手を背後の校門の方へ向けた。

 何か呟き始める。


≪クリンゲ デル フラムメ フュンフ≫


 魔力の高まり。

 そして、彼女の手の平から放たれた五つの炎の刃。

 校門をあっさり斬り裂いた。


 その威力に、この場の皆が驚いている。

 私も含めて、言葉すら発せられない。


 知識として魔術の事を知っている私。

 それでも驚いたんだ。


 知識すらもない同級生達。

 その驚きはとんでもないんじゃないかと思う。


 所々言葉がおかしい人。

 だけど、この人の実力なら、校舎毎吹き飛ばす。

 そんな事も可能だったりするのかな?


 正直、あまり戦いたくはないけど・・・。

 皆を巻き込むわけにはいかない・・・よね。


「わ・わかりました。外靴に履き替えてそちらに行きますので、お待ちください」


 思わず何故か、口調が丁寧になってしまった私。

 先生二人と同級生達は、理解を超えるような出来事なのだろう。

 言葉も出ないままフリーズしてるみたい。


 正直怖いけど、私は一人廊下に出て、下駄箱に向った。

 そのまま歩いていくけど、どの教室も、人のいる気配はする。

 なのに静かなままだ。


 下駄箱につくと、玄関の一部が崩れている。

 さっきの衝撃はこれだったんだ。

 でも何で玄関なんて壊したのかな?


 そもそも彼女が私と戦う理由って何なんだろう?

 三井兄様とかに挑む人がたまにいる。

 それは、まだ何となくわかる気がするけど。


 私はグラウンドに出た。

 真ん中あたりに、さっきの女性が立っている。

 眼帯で右目を隠しているけど、片目が見えないのだろうか?


 ストレートの金髪に青い瞳の彼女。

 黒のスパッツに、フリルのついた銀と黒のミニのワンピース。

 銀色の眼帯という服装。


 左手だけに細かい装飾のされた腕輪をしている。

 魔術を攻撃手段にしているのか?

 両手には何も持っていなかった。

 杖とかがあっても良さそうなもの。

 だけど、そうでもないのかな?


「銀斉さん、お待ちしておりました。私はエルメントラウト・ブルーメンタールと申します。エルメとお呼び下さい。さて、戦う理由がわからないのも気持ち悪いと思いますので、私ならきっと気持ち悪いと感じますのでご説明いたします」


 微笑みながらそんな事言われても・・・。


「私は【獣乃牙(ビーストファング)】の団員なんでございます。そして私の下された指令は銀斉さん、あなたの捕縛でございます」


 【獣乃牙(ビーストファング)】・・・。

 三井兄様が言ってた名前がここで出てくるなんて・・・。

 もし遭遇する事があっても、関わるな。

 そう言われてたけど、これは無理かな?


 それにしても、私が考える事じゃないか。

 けど、人質を取れば簡単に捕縛出来るだろう。

 なのに何でしなかったのだろう?


「もちろん、あそこで、あなたを案じている方々を人質にとれば簡単でしたですよ。でも私は戦うのも好きなのでございます。だから実力を持って、あなたを捕縛したかったのでございますよ」


「そ・・・そうですか。それで私を捕縛してどうするつもりなのでしょうか?」


「捕縛した後は、他の仲間の所へ向うんでございます。同時多発で、私と同じように襲撃させて頂いているんです」


「え? 皆の所にいってるって事ですか?」


「そうですね。私達の目的に、障害になりそうな方々の所には、行ってるはずでございます」


 私の所に来てるって事は、三井兄様や他の皆の所にも・・・。

 もし私がこの人に負ければ、他の誰かの負担が増えるって事になる・・・。

 そして、ここから逃げれば同級生達にその牙が向うんだ・・・。

 これは・・・どうあがいても戦うしかないのね・・・。


「その気になって頂けましたでございますかね?」


 迷ってる暇なんてない。

 覚醒して冷気で凍らせて動きを封じよう。

 そしたらまずは三井兄様と合流。

 その後は、近い人から順番に、皆の所へ行けばいい。


 他には誰もいないグラウンド、見詰め合う二人。

 銀髪の青白い瞳の少女。

 彼女は、真剣な表情になった。

 相手の一挙手一投足を、見逃さないようにしている。


 もう一方の眼帯、金髪の女性。

 まるで、ピクニックにでも来て楽しんでいるような微笑。


≪ワンド オブ フラムメン≫


 燃え上がった炎の壁。

 吹雪の冷気攻撃は防がれた。

 しかし、解き放たれた炎の壁そのものを凍結させる。


 吹雪は凍結した炎の壁に、氷の槍を最速で射出。

 氷の壁となった炎の壁を砕き、氷の飛礫を撒き散らす。

 その一連の動作の間に、エルメも詠唱を終わらせていた。


≪スペエル デス リエシゲン フラムメ デュルチドリンゲンデン≫


 氷の飛礫を蒸発させ、貫通してきた巨大な炎の鎗。

 次の一手の為に、吹雪は既にそこにはいなかった。

 水蒸気で視界がきかない中。

 エルメの右側に回りこみ、拳大の氷の塊を複数撃ち込む。


 予想していた通り、彼女も既にそこにはいなかった。

 氷の塊の射線上に入らないように弧を描いて移動したエルメ。

 水蒸気に隠れて吹雪の前に現れた。


 エルメから放たれる回し蹴り。

 バックステップで躱した吹雪。

 そこから今度は前に進む。

 彼女の腹部目掛けて掌打を放った。


 エルメは右手で、吹雪の掌打を逸らした。

 同時に、懐に飛び込み、その顎目掛けて膝蹴りを放つ。

 しかし、体を沈み込ませつつ後ろに下がった吹雪。

 そこから更にバク転をして、少し距離を取った。

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