034.赤面-Blush-

1991年5月29日(水)PM:23:52 中央区桐原邸二階


 由香さんの言葉に乗せられて、ここまで来ちゃった。

 すっごい恥ずかしい。

 どうしよう・・・。

 でも、ここまで来たんだし。


『コンコン』


 ノックしちゃった。


「ゆ・・ゆーと君、まだ起きてる?」


 寝てたらどうしよう?


「起きてるけど、どうした? とりあえず入れよ」


「う・・うん」


 とりあえず、ゆーと君の隣に座った。

 けど、きっと今の私、顔赤くなってる。

 凄い、恥ずかしい・・。

 でも、ゆーと君は、いつも通りみたい。


「どうした? 何かあったか?」


 言いたい事はわかってる。

 なのに、言葉に出すのが、凄い恥ずかしい。

 何で、こんなに、ドキドキしてるの?


「あ・・あの・・あのね・・」


「うん」


 ゆーと君、やっぱ、いつも通りみたいだ。

 ちょっとだけ、何だか悔しいな。


「う・・うんと・・うんとね・・・」


「うん? どうした?」


 ゆーと君から、気付いてもらおう。

 なんて、虫が良すぎるよね・・。

 自分で、ちゃんと言わなきゃ。


「あ・・あのね・・・。い・・一緒に・・寝てもいい?」


「えっ?」


「・・やっぱだ・・駄目?」


 ・・・唐突に、こんな事言われても、困るよね。

 ゆーと君、変な事言ってごめんなさい。


「駄目じゃないけど。突然どうした?」


「う・・うんとね」


 きっと、今の私、凄い動揺してる。


「まぁ、無理して言わなくてもいいけど。寝よっか」


「う・・・うん」


 今は、これでもいい。

 でも、ゆーと君、本当は私の事、どう思っているんだろう?

 きっと、妹みたいな、ただの幼馴染みたいな感じ。

 なのかもしれない。


 でも、ちょっとずつでも、好きになってもらいたい。

 もっと、一緒にいれる時間を、大事にしないと。

 ゆーと君と、釣り合うような、女の子にならないとだ。

 うん、頑張ろう!


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1991年5月30日(木)AM:6:42 中央区桐原邸二階


 緊張して、あんまり眠れなかった。

 ゆーと君の、静かな寝息が聞こえてくる。

 いつも見てる顔。

 なのに、何でこんなに、ドキドキしてるんだろう?


 好きになったのは、いつからだろうか?

 もしかしたら、最初は憧れだったのかもしれない。


 そうだ、あの時だ。

 何が起きたのかは、いまだに良くわからない。

 でも、ゆーと君は、私を守ってくれた。

 お姫様を守る騎士みたいだった。


 両親が私を見つけた。

 でも、ゆーと君は意識を失っていた。

 私はただただ、泣きじゃくっていただけ。


 それからゆーと君は、何日も目を覚まさなかった。

 ただ、泣いているだけだった私。


 今回も、あの時と同じだった・・。

 私って弱いなぁ。

 何でこんなに弱いんだろう・・・。


 隣を向けば、ゆーと君の顔が側にある。

 何で、そんな事したのか、自分でもわからない。

 私は、そのほっぺに、優しくキスをした。


「・・んぁ・・うん・・・」


「ひゃ・・・!?」


 寝言だったみたい。

 びっくりした・・。


「・・・んあ、・・・おはよう」


「お・・おはよう・・。ゆ・・ゆーと君」


「んあー、そういや、なんで、そんなしどろもどろなんだ? 昨日もそうだったけど?」


「え・・・い・・いやいや・そ・・そんなことないよ?」


「そんな・・まぁいいや」


 ゆーと君の手が動く。

 私の頭におかれた左手。

 優しく撫でられた。

 きっと私の顔は、真っ赤になってる。

 沸騰したヤカンみたいに。


「んあー、なんだまだ時間あるのか?」


 ゆーと君、凄く眠そう。

 そのまま、また眠りについた、ゆーと君。


 気付いてたのかな?

 落ち着かない私は、彼の手を、おそるおそる握った。

 彼は、優しく、握り返してくれる。

 私には、それで充分だった。


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1991年5月30日(木)AM:8:20 中央区菊水旭山公園通


 僕は今日も愛菜と二人で登校した。

 彼女は隣で、時折何か恥ずかしそうにしている。

 一緒に眠ったからだろうか?


 道中も普通に会話はしている。

 少しだけ、愛菜がもじもじしていた。

 その事を除けば、いつも通り。

 僕達は教室に到着した。


「ゆーと、眠そうじゃないか」


「おはよう、マサ。ちょっとな」


「ちょっと? 昨日はハッスルだったのかい?」


「ハッスル? 何を?」


「チッ、通じないのかよ。面白くない」


「え? いや・・まじで意味わからんて?」


 有紀と愛菜は、珍しくこっちにはこない。

 二人で何やら、楽しそうに話しをしていた。

 何故か、愛菜がこっちをチラチラ見てる。


「男と女が、一つ屋根の下で暮らせば、することは一つしかないでしょ?」


「ん? えっ!? いやいや」


「ゆーと、何動揺してんの? まさかまじで?」


「いやいやいや、してねーよ。そもそも、一つ屋根の下で、一緒に暮らしてねーし」


「あぁ、隣同士だったか?」


「そうだぞ」


 でも、昨日、確かに、そうしようと思えば、出来る状況ではあった。

 たぶん愛菜は、そんなつもりで来たわけじゃない。

 くそ、マサめ、何てこと言ってくれる・・・。


「まぁ、あんだけ仲良しなんだし、ゆーと次第なんじゃないの?」


「え? どうゆう意味?」


「そこまで教えてやる程、お人好しじゃありませぬ」


「なんだそれ?」


「ま、えりかっち来る前に、席戻るわ」


「ん? あぁ?」


 マサは結局、何が言いたかったのだろう?

 あいかわらず、謎な奴だ。

 しかし、本当、由香さん、電話で何言ったんだろうか?

 一度気になったら、頭から離れないな・・。


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1991年5月30日(木)AM:10:37 中央区特殊能力研究所五階


「所長、今回の、ちゃんとした報告書」


「あぁ、そこに置いといてくれ」


「へいへい」


 近藤、戻ろうとしないな。


「所長よ、円山原始林って、天然記念物なんだろ?」


「そうだな」


「大丈夫だったのかよ?」


「まぁ、いろいろと、お叱りとかは受けたな。それでも、学園建設場所の時の事に比べればどうってことない」


「さいですか。俺は、その頃の事は、あんま知らないからなぁ」


「まぁ、お前達が気にする事じゃないさ」


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1991年5月30日(木)PM:16:22 中央区菊水旭山公園通


 愛菜は有紀と買い物に行くらしい。

 その為、今日は僕一人で帰宅だ。


 最初に気付いたのは、数学の授業の時。

 先生の名前何だっけ?

 存在感薄い先生だから、すぐ忘れるな。


 数学は得意だ。

 けど、たぶん教え方も悪くないんだと思う。

 うん、やっぱり名前、思い出せない。


 本題はそこじゃない。

 授業中、たまに愛菜がこっちに視線を向けてた。

 気付いて視線合わせると、そっぽを向かれる。

 最初に気付いたのが、数学の授業の時だった。


 何だろう?

 何かしたっけか?

 逆に、何もしなかったからなのか?

 うーん?

 どうしたものか?


 マサに相談しても、茶化されて終わりそうだし。

 かといって、有紀に相談するのもな・・。

 うーん・・・困った。


 僕は数学の授業で気付いてから、どうするべきか迷っている。

 どうしようもないのかもしれない。

 休憩時間に話しかければ、愛菜は答えてくれた。

 だから、嫌われたとかではない。

 余計、僕にはどうしていいかわからなかった。


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1991年5月30日(木)PM:18:01 中央区特殊能力研究所二階


 一回目の授業。

 全員、ちゃんと出席だった。

 三井さんと吹雪さん、紗那さんもいる。


 資料を配る由香さんが講師だ。

 全員に配り終わり、授業が開始された。


 今日は、異能力の、分類について。

 異能力と言っても、大雑把に三種類に分かれるらしい。

 一つ目が、エレメンターとか呼ばれてる、僕みたいなの。


 正式には、精霊士と言うそうだ。

 英語読みすれば、エレメンターだね。

 一人前と認められれば、精霊師となるらしい。

 その基準については、説明がなかったのでよくわからなかった。


 精霊士にも初級、中級、上級と、ランク分けが存在する。

 詳しい話しは、いずれするらしい。


 精霊士は火、水、風、土の属性が存在。

 どれか一つが、必ず得意属性となる。

 属性の相性としては、火と水が反発、土と風が反発。

 得意属性が一番強く、次に、得意属性でも反発属性でもない二種。

 一番弱くなるのが反発属性だ。


 反発属性だからと言って、使えない事はないそうだ。

 あと、反発属性同士がぶつかれば、強い方が基本的には勝つ。

 しかし反発とは言え、実際の現象は、多岐にわたる。

 その為、例外も多いみたい。


 その力の根源は、霊子と呼ばれる。

 一般的には、霊力と言った方がわかりやすい。


 二つ目が魔術士。

 これも一人前と認められれば、魔術師と呼ばれる。

 厳密には魔術士、魔法士、魔道士、魔導士の四種類に分類。


 力の根源は、魔子。

 魔力と言い変えた方がいいだろう。

 属性については、使用魔術の系統によっても、いろいろあるらしい。


 三つ目が妖魔士。

 一人前になれば妖魔師。

 基本的には、属性なども含めて精霊士と一緒。


 妖子というのが、力の根源。

 ようするに、妖力って事だろうな。

 鬼人族(キジンゾク)や獣人族(ジュウジンゾク)などが該当する。


 ゴブリンとか、ドワーフとか、エルフとかもいるのだろうか?

 聞いた事ないという、由香さんの一言でバッサリ斬られた。


 精霊士と妖魔士が基本的に同じなら、一緒でいいじゃん。

 そう思ったが、大人の事情とやらで、そうもいかないらしい。


 質疑応答を受けつつ、由香さんが色んな話しをしてくれる。

 中には、東京の学園に通ってた時の話しなどもあった。


 なんだかとっても、ファンタジーな話しすぎて楽しい。

 けど、現実感なさすぎる。

 自分は異能力持ち。

 実際、鬼人族(キジンゾク)とも遭遇した。


 実は僕は、ゲームの中の世界にいたりするのだろうか?

 なんて、馬鹿な事を考えてしまった。

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