9話 現れた幽霊の謎
「なんだよー! なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「そうですよ! せっかくのシャッターチャンスだったのに!」
二人とも真剣な顔で迫ってくる。
「あのねえ……」
――こいつら……。
ピキピキと青筋を立てそうになる自分をなんとか落ち着ける。
翌朝。
なんとか朝日が昇るまで耐えたあたしとフユは、みんなが起きるのを待ってから、朝ごはんも待たずに昨日の出来事をはなした。フユもよく眠れなかったらしくて、何度かあくびをかみ殺している。
居間にやってきたはいいものの、なんだか居心地悪い。フユも同じ気持ちらしかった。食堂を見たときはびっくりしたけど、今となっては居間で朝ご飯を食べることになっていなくて、良かったと思う。
そんな気持ちになる理由はたったひとつ。
この部屋で幽霊が消えたから――。
「アキト君はどう思う?」
目をむけると、暖炉側の壁をじろじろと見つめていた。
「……おい、何してんだ? アキト」
ナツキ君の声にも反応せず、アキト君は壁を触ったり、暖炉を覗き込んだりしている。
「書斎の幽霊……消えたのは居間……、ここに何か仕掛けがありそうなんだけど……」
ぶつぶつつぶやきながら壁に語り掛ける様は、ちょっと異様だ。
「おい、あいつどうしたんだ?」
ナツキ君があたしにそっと囁く。
「さ、さあ……」
そのうちに、アキト君は不意に扉を見ると、ずんずんと居間から出て行ってしまう。
「僕、お腹空いたんですけど」
シュンスケ君が情けない声をあげる。
「だよね……」
そういえば、朝ごはんがまだだ。
アキト君を追って居間から出ると、書斎の前に突っ立っていた。
「昨日から今日まで、この書斎に入った奴はいる?」
「え? いや……」
「僕は入ってませんけど……」
「幽霊が出たのはこっちの居間の方だろ?」
ナツキ君もシュンスケ君も、本当にわけがわからないような顔をしている。
アキト君は少し考え込んでから、書斎のドアノブに手をかけた。
ノブを回すと、扉はごくあっけなく開いた。
鍵はかかっていないみたいだ。
扉からちらりと覗くと、昨日と変わりない景色が目に入る。窓から入ってくる朝の陽ざしが明るく射し込んでいて、アキト君も眩しそうに近寄った。
それから、窓の下のところを指でなぞる。
「……あいつ、何してんだ?」
「さあ……?」
なにかひとつ頷くと、くるりと振り返り、今度は壁の本棚の方を調べ始めた。真ん中にあるナポレオンの下にしゃがみこんで、装飾のされた板部分を見つめている。
いったいなにがあったっていうんだろう。
アキト君は振り向くと言った。
「昨日、確かに誰かいたんだよ。オレたち以外に、この屋敷に」
「な、なんでわかるんだよ」
「今の今まで、書斎には誰も入ってないんだよな?」
「ええ、そうですけど……」
シュンスケ君の言葉に、あたしたちは顔を見合わせる。
「おい、俺たちにもわかるように説明しろ!」
「まず、カーテンだよ。ここに入った時、窓のカーテンが開いてただろ?」
「カーテン?」
あたしたちは一斉に窓を見た。
確かにこの部屋に入ったとき、そこだけ明るかった。
ぐるっと見回すと、ちょうどナポレオンの反対側にあるカーテンだけが開けられていた。
「そういえば、昨日は確かに閉まってたけど……」
「誰かが、急いで窓を開けて出ていったんだと思う」
「誰かって、誰だよ」
「そこまではわからない。それからもっとはっきりとした証拠としては、窓枠に土がついてる」
さっき窓の所を調べていたのは、それを確認していたようだ。
「さすがにうちの父さんと母さんは窓から出入りするような非常識さはないしね」
それもそうだ。
普通の人は窓から出入りなんてしないはず。
……そういえば、アキト君のお父さんとお母さんは、帰ってきたんだろうか?
でもあたしはそんなこと聞けないままだった。
「でも、書斎の窓から出入りした人がいるってのはわかりましたけど、”幽霊”は居間から消えてしまったんですよね。そのあたりはいったいどうなっているんですか?」
「それは、今から調べるところだ」
アキト君はそこで言葉を区切って、厳しい顔をした。
「オレは今日、ウメさんのところに行けば大体の謎は解けると思っていた。だけど、もう一つ何か隠されていそうなんだ――”幽霊”に関して」
あたしはなんて言葉を言うべきかわからなかった。その代わり、ちらりとみんなの様子を見る。
ナツキ君はじろじろとカーテンや窓の所を見ているし、フユはそわそわと落ち着かなげにしていた。
アキト君はデジカメを片手に首をかしげているシュンスケ君に近づくと、どこを撮ってほしいかを色々と頼みはじめる。
「このナポレオンとか、どうですかね」
二人がナポレオンの肖像を前に話しているのを横目にして、あたしも書斎の中を見回してみる。だけど、何もおかしなところはなかった。
百科事典は相変わらず一巻と三巻が抜けているし、よくよく見れば六巻の次は七巻になっている。どうして中途半端なのかまったくわからない。昨日忍び込んだ誰かが奪っていったってこともなさそうだ。こういうのって揃えないと意味がないんじゃあ……。
あたしはため息をついたあと、みんなに向かって言った。
「ねえ、朝ごはん食べてから、ウメばあのところに行かない? ウメばあのところに行けば解決するかもしれないことがあったんでしょ」
「……そうだな」
「おう、そうするか! でも、ウメばあのところで何が解決するんだ?」
「少なくとも、屋敷の謎について解けると思う。それが幽霊の謎ともつながっていると思うから」
「へえ……?」
ナツキ君はじろじろと値踏みするようにアキト君を見た。
「そこまでいうなら見せてもらおうじゃねえか」
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