幽霊屋敷の秘密

冬野ゆな

はじまり

 暗い夜道を、一人の男がとぼとぼと歩いていく。


 ――あいかわらず、不気味なところだなあ……。


 自然とため息が出た。

 会社帰りのこの時間、この道を通るのはいつもいやだった。

 他に人通りのない住宅街は、普段以上に静まり返っている。

 その一番の理由が、途中にある不気味な古い洋館だった。

 洋館は、まわりの新しい建物とは違う、異様な存在感を放っていた。どっしりしたたたずまいは、道すがら通るものを見下ろして威圧している。ネコの子どころかアリの子いっぴき見逃すまいとにらみをきかせているようだった。

 何年か前までは人が住んでいたらしいが、その人が死んでしまってからは、誰も住んでいないらしい。それ以来、洋館は放置されていて、誰の手も入っていない。広い庭は荒れ放題で、塀からは鬱蒼とした木々が乗り出している。

 地元の老人たちは別の名で呼んでいたが、子供たちはもっぱらこう呼んでいた。


 〈幽霊屋敷〉――


 子供たちがそう呼ぶように、幽霊が出てきてもおかしくない独特の空気を持っている。ちらりと目にした洋館は、おどろおどろしい影があった。

 横目でちらちらと見ながら足早に通り過ぎようとしたとき、きらりと洋館の窓で何かが光った。


 ――な、なんだ?


 立ち止まって目を凝らす。

 光は小さく上下に揺れたかと思うと、ふっと消えてしまった。


 ――ドロボウか? それとも……?


 ぶるっと震え、考えを打ち消す。


 ――違う、幽霊なんているわけない!


 気を取り直して、現実的に考えようとする。

 もしかしたら誰か悪戯で入り込んだのかもしれない。

 幽霊屋敷と言われているぐらいだし、肝試しとして入り込んだのかも……。


「だ、誰かいるのか……?」


 自分を奮い立たせるように、声をあげる。

 誰にも聞こえないぐらいの小さな声だった。

 もっとよく見ようと、門に近づいたそのとき。


 ぎぃあああああああ――


 屋敷全体が僅かに震えるように、不気味な悲鳴があがった。


「う、うわあああああ!」


 腰を抜かして逃げ帰る男の後ろで、館は悠然と立ちすくんでいた。

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