第2話 リアルな嫁の憂鬱

「一緒に幸せになろう。結婚してください。」

「はい。」


そんなシンプルなプロポーズから、早数年――。

周囲から見ると、結婚して夫婦2人で幸せそうに生活している夫婦がいる。

20代後半の夫婦は共働きだ。

どこにでもいる、ごくごく一般的な、幸せそうな夫婦である。


そんなごくごく一般的な家庭のなかで、自然な流れで今後の人生設計について話す事もある。

夫婦揃って「そろそろ本格的に子作りを……。」と話し合うものの、生活のすれ違いが続いている。


「ねーご飯できたよー?」

「ごめん。もう少しだけ待って!」

「はぁ……。」


最近、嫁はため息が多い。


「またスマホ見てるの?」

「んーブログ更新中。この前イベントしたからなー。」

「はぁ……。」


こんな会話は日常茶飯事。


「今日の夜は遅くなるから。」

「あら?飲み会?」

「ううん。オフ会。」

「……ふーん。そう。」


そう。

この夫婦が抱える問題は「夫がネトゲ中毒」という点だ。


夫婦は揃って国民的MMORPG「ドラグニア」のプレーヤーだ。

発売日に夫婦揃ってプレイを始め、夫はガチ廃プレーヤーに。嫁はライトプレーヤーとして楽しんでいる。


最初はこのプレイスタイルで問題がなかった。

元々ゲーマーでさまざまなMMOを経験した夫にとって、ゲーム内の雰囲気もゆるく操作も簡単なドラグニアの世界は快適そのものだ。

一方嫁は、初めてのMMORPG。

プレイ当初は夫と一緒に遊ぶ時間も多かったものの、少しずつゲームに対する感覚が夫婦間でずれてきた。

ゆえに、嫁のプレイ時間は自然と減り、今では夫は毎日定期的にログインするプレーヤーになり、嫁は気分転換程度にログインするライトプレーヤーとなった。


嫁のゲームに対するモチベーションが下がって行く一方で、夫はゲームに対する熱が上がる一方だ。


そして、現在。


嫁はゲームをほぼ引退。

一方で夫は、ゲームに関するブログを執筆し、SNSでプレーヤー同士で頻繁にコミュニケーションを持つようになった。

プレイ中にプレーヤー同士で音声通話も行い、家庭内で嫁との会話も減っていった。


この現状に、リアルな嫁は少しずつストレスを溜め込んでいることに、夫はまだ気がついていなかった――。



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