荒廃日誌

如意棒

4月12日 晴れ 


 電源の生きている端末を拾った。

 古代の異物だ。

 機能はほとんど死んでいたが、文字を記録するソフトだけは生きていた。

 試しに数文字ほど書いて保存してみると、「送信されました」という文字がポップした。

 どうやらこのソフト、書いた文字が自動的にどこかへと送られる仕組みとなっているらしい。

 

 どこに送信されるのかは不明だが、せっかくなので、日記を付けてみようと思う。

 なにが『なので』なのかは、私自身にもわからない。

 あるいは、いずれどこかで朽ち果てるこの身の上を、誰かに知ってもらいたいのかもしれない。

 願わくば、この記録が誰かに届くことを祈る。


 では、今日の分を書こう。


 今日は天気のいい日だが風が強く、砂漠には土埃が舞っていた。

 太陽が真上に登る頃に、数ヶ月前に得た変異サソリの乾燥肉を食べていると、遠くの方に遺跡の頭が見えた。

 遺跡とは、私が生まれるよりずっと昔に滅んだ文明の跡だ。

 その文明は世界中に広がっていたらしいが、今や大半は砂に埋もれてしまっている。

 そう、父に教わった。

 父は祖父に教わり、祖父は曽祖父に教わったらしい。

 つまり又聞きなので、真実かどうかはわからない。

 何がどうして砂に埋もれてしまったのかは、父も知らなかった。


 私にわかるの三つ。

 一つは、今日のように風の強い日になると、上に掛かった砂が払われ、遺跡の頭をちょこんと覗かせることがある、ということ。

 ゆえに、私は遺跡が頭を見せるのを発見した。

 一つは、遺跡の中には生きていくのに便利なものが大量に存在している、ということ。

 ゆえに、私は遺跡の頭が見えた瞬間、そちらに足を向けた。

 もう一つは、遺跡の中には獰猛な生物が巣を作っていたり、凶暴な怪物が眠っていたりする、ということだ。

 ゆえに、私は慎重に移動した。

 獰猛な生物の巣だったり、凶暴な怪物の住処なら、即座に逃げられるように気を配りながら。


 もっとも、期待や緊張とは裏腹に、遺跡の内部は空だった。

 すでに、他の生物がここを荒らしてしまったのだろう。

 食料になりそうなものはもちろん、住処としている生物もいなかった。


 その代わりに見つけたのが、この端末だ。

 この手の端末は、基本的に全て壊れている。

 だが、珍しいことにこの端末は生きていた。

 そして、私は父より、この手のものの起動方法を教わっていた。

 ついでに言えば、文字の読み書きも。

 さらに言えば、この端末に使われている文字は、幸運なことにも私の知っているものと同じだった。


 この端末がいかなる理由で生きながらえていたのかはわからないし、いつ死ぬかもわからない。

 だが、それは私も一緒だ。

 せっかくなので、使わせてもらおうと思う。

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