第2話 出現

―――そしてついに、長らく平和の続いた


エルトフィア大陸が属するエルトフィア地方にも、


いわゆる魔王が現れた。


西に浮かぶジュネート大陸が、ほぼ手中に収められたという。


エルトフィア大陸の半分ほどの面積を持つその大陸は、


もともと人は一部の沿岸部にしか住んでいなかった。


太古から魔物が多かったためで、それは周辺の海域も同様であり、


渡航すら困難であった。


そのごく少数の人々が、命からがら脱出して


エルトフィア大陸の北西部にある


リリガルド王国にたどり着いたのである。


彼らによると、突如空に異変が生じ、


ジュネート中に響き渡るような声が聞こえた。


『我、目覚めたり。眷属どもよ、我に従え』と。


ほどなく至る所で魔物の数が増え、さらに村にも迫って来ていたので


逃げ出して来たというのである。





それを受けて、エルトフィア地方の主要五ヶ国、


ジェストール・アスティア・ファンフラン・


ニーベルム・リリガルドの指導者たちは、


数ヶ月前に決定したばかりの『正規勇者』に行動を開始するよう要請した。


魔王出現か、の報を受けすでに準備を開始していた正規勇者は


三人の仲間を連れジュネート大陸へと渡った。


無論大々的に報道され、不安を抱いていたエルトフィアの人々は


皆の希望である正規勇者の身を案じたが、


彼らは難なくジュネートに上陸し、


連絡用にと渡されていた魔導の力で音声と映像を伝える


魔導テレビの放送機器を降り立った地に設置して


上陸報告をしてきたのである。


その大胆不敵な行動に人々は頼もしさを覚えた。


現地で重量のある放送機器を持って移動することはできないので、


おそらく次に連絡があるとすれば


無事に目的を果たし上陸地点に戻った時。


しかしすでに彼の名声は天に届かんばかりに高まっていた。


元より剣技・魔法に天才的な素質を持ち、


文句なしに正規勇者となった人物である。


彼の仲間も一騎当千、当代きっての豪傑ばかりで、


彼らなら魔王を倒してくれると誰も期待した。


だが、簡単にはいかないだろう。


わずかに残った人間が去って完全なる魔物の巣窟と化し、


魔界とも言うべきジュネート大陸にたった四人で乗り込み、


魔王を探し出して討とうというのだから。


また、エルトフィア大陸とて安泰というわけにはいくまい。


正規勇者たちが戦っている間にも、


魔王が手下どもを差し向けてくる可能性は当然ある。


虎穴に飛び込んだ英雄たちと同じく、


大陸中の皆も祖国を守る覚悟をしなくてはならないのだ。

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