交差点~Crossing~
すべては偶然だった。
『特察刑事レディーガンナー
とある即売会から実写ドラマに発展したオリジナル同人誌。作者は『Yu-ri』。同人界隈で『京極謳子』に並んで、その名前を知らないものはいない。しかし、性別や年齢はおろか、依託ばかりで本人は現れない。小説から漫画まで手掛ける奇才ぶりに誰もが羨望して止まない人物なのだ。
実写化にあたって本人は言う、「いや、出来ればアニメ化のがありがたかったです」と。
俳優や女優に疎い当人。演出家にすべてお任せて迎えた顔合わせ。「こちらが原作者のYu-ri先生です」「こちらが主演女優で、うちで売り出し中のアイドル、『雪野結愛』です」他愛のないやり取り、だったはず……。
「へ?!結愛ぁぁぁぁ?!!!!」
「え?え?え~~~~~~?!!ゆりお姉ちゃん!!」
ゆりはアニメヲタクなために、アイドルになるという末妹の結愛の話を、範疇ではないが、「そうか、頑張れ。」と個々で頑張って生計維持しよう的なざっくり認識をしていた。
結愛はヲタクをよく知らず、ゆりの絵が上手かった印象程度の認識だった。
会場は騒然とした。偶然とはいえ、姉の作品の主演女優が妹という……。
気に食わない、いい噂のない相手役・
しかし、職権濫用と言われようが、この偶然タッグで『生計』を少しでも潤したいという原作者の脅迫紛いの申し出に根負けした製作陣。「連れ添った妹に無理はさせないから、いいですよね?」その一言から始まるゆりの快進撃は目を見張るものがあった。
自分のファンを取り込み、アイドルヲタクさえもまだ発掘していなかった新人アイドル結愛をアニメヲタクに人気のアイドルにし、慌てたアイドルヲタクを取り込んでいく。結愛が分け隔てなく、純粋に対応出来る娘に育っていてよかったと、ゆり姉さんはほくそ笑む。
斯くして差木沢の暗躍は、姉の趣味の権化の前では塵と化していた。
だが、ゆり姉さんは止まらない。今までの既刊本を大量に発行し、結愛に売り子をさせ、各イベントで完売御礼オンパレードを記録した。
「お姉ちゃん、無給は困るな」「明日の夕飯担当変わるから!木曜日のゴミ回収変わるから!」そんな微笑ましい、姉妹会話が場所を問わず聞こえてくる。
ちゃんとした格好をすれば美人なゆり姉さん。素材から美少女感漂う結愛。美人姉妹にうっとりしながらも、生活感溢れる会話にほっこり。
人気は同情もこみこみで、鰻登りだった。
◇◆◇◆◇◆◇
人気で温まる宣伝の中、撮影は着々と進んでいた。
セーラー服と警察の礼服を足して二で割って、更に萌え要素を封入した衣装で現れた結愛。
『特察刑事レディーガンナー
そもそも、結愛が選ばれた理由が、バランス感覚がずば抜けていたから。それもそのはず、彼女は小さい頃から『弓道』を趣味で習っている。バランス感覚はおろか、集中力までもが培われていた。更に、信念にまっすぐな姿が選ばれた理由だ。
◇◆◇◆◇◆◇
時は近未来。現在と過去を行き来しながら、犯罪を駆逐する特殊機関『特殊警察機構ガンナーズ』。最年少にして、技術力の高い女子高生警察官・御子柴澪。彼女の物語である。
キャリアでのしあがった上官のキャスター・クロニクル(差木沢)とのコンビネーションが、本作品の面白い部分と言える。青みがかった黒髪美少女と金髪碧眼イケメン(金髪は染めて、目はカラーコンタクト)の組み合わせ。
彼の脳内シミュレートは的確で、それを実行出来るだけの能力を兼ね備えている人材が澪なのだ。タイムトラベル出来るのも、現在澪1人。
宇宙船のような、広いルーム一面に敷かれたモニターを通して、澪に指示を出すキャスター。
しかし、
しかし、二人のスピーディーで連携の取れた演技は、息を飲むほどだ。
澪の学校のシーンなどは原作にはないが、ゆりを交えてのオリジナルを組み入れた。メリハリのあるシナリオは、深夜には勿体ないレベルである。
◇◆◇◆◇◆◇
撮影は実に順調だった。
だが、差木沢が問題を起こしたために、1クールで幕を閉じなければなくなった。
差木沢自身、演技に関してはベテラン級であり、ミステイクなど起こさない。しかし、プライベートは役柄以上に問題なのだ。
今まで再三の注意を促され、改善が見られず、仕事が来なくなっていた。理由が『女性問題』。相手役から共演者まで、実に幅広く手を出す。同じ作品内で最高5胯までが記録に残っている。
今回は自粛を続けた上でのチャンスだったのにも関わらず、またも手を出した。主演の結愛ではなく、
折角の初主演作品を台無しにされてしまった。
しかし、彼はわざとやっていた。噂が役に立たないのならば、自分で作品を落とすしかないと。後がないなら、新人諸ともと考えたのだろう。
だが、視聴者の多くは彼女のファンである。自分だけが糾弾されるとは夢にも思っていまい。結愛には全く落ち度はない。二期制作予定が棒に振られたこと以外は問題にならなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
結愛は辛かった。自分の作品だとは思っていない。ゆりから、作品について色々聞いていたから。
アニメならば背景やストーリー、キャラクターや声優に至るまでのすべて、作成側と出演者の作品であり、一つとして欠けては成り立たない。
ドラマも然り。作品を作るにあたっての、撮影スタッフや出演者すべてが構成の、作品の一部であると考えていた。
だからこそ哀しいのだ。たった1人の均衡を崩す行為で作品が成り立たなくなることが。
新人を盛り上げるための1人として選ばれたと考えてもおかしくない構図。しかし、彼はわかっていないのだ。自分も作品の一部であることを理解していなかった。完璧に演技が出来ていても、協調性に欠けてはもとも子もない。
今回で、彼は引退を余儀なくされるだろう。
結愛には関係のないことだが、共演者として胸が苦しいのは代わりない。
◇◆◇◆◇◆◇
最後の撮影日、重い気持ちで撮影に赴く。
結愛には、今回の作品で色々なメーカーなどからのオファーが殺到していた。けれど、差木沢には何もなくなった。無理矢理撮影所に連れて来られて、やる気を見せていない。自分のしでかしたことに、一切の反省がないのだ。
それでも、撮影は開始を告げる。
最後のタイムトラベルをするシーンに差し掛かったとき、問題は起きた。
照明で発光を調節していたはずが、照明とは反対側から強い発光が結愛を照らし、包み込んだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます