特察刑事レディーガンナー澪《れい》
姫宮未調
第1話 アイドルで生計立ててます☆
━━私は
私の夢は、『たくさんの人を歌で幸せにすること』。けれど、この夢は……私の恩師の願いでもある ━━
出会いは迷い混んだ
帰り道、感動で前が見えていない私に、ガラの悪そうな男たちが絡んできた。恐怖で何を言っているのかもわからないし、動くこともできない。
そんな私を誰かが━━彼女が突然、後ろから抱き締めてくれた。私より幾ばくか小柄だった。
「ボクのお客さんに手を出さないでよ。」
「んだとこらぁ?」
男は5人はいた。私は中学生になりたて、彼女もまだまだ若いはず……。すっと私の瞼が優しく閉じられる。
「……お嬢さん、少しだけ目を閉じていて。」
ただ頷くしかない。自分の手を耳に当てられ、固定するように言いたいのがわかる。手を離すと、私から離れる。
……体感にして数秒。再び彼女が私に触れ、耳を解放され、瞼を開ける。そこには、彼女がいた。キレイで可愛い、私の心を掴んで離さない人。
「もう、大丈夫。遅いからまっすぐお帰りよ。」
そんな彼女の向こう側には、先程の男性たちが、アニメや漫画のように積み上がっていた。そのまま、来た道を帰ろうとした彼女に声をかける。
「あ、あの!ありがとうございます!私!その……アイドルになりたいんです!」
歩みを止める。後ろを向いたまま。
「あなたならなれるよ。かわいいし、人を魅了する声質だもの。」
また歩き出そうとした。
「私は!あなたのようなアイドルになりたい!私!感動しました!明るくて爽快な曲もワクワクしたけど、最後の『太陽の影 月の物語』。あれが、一番好きでした!まわりが静かになったのが不思議でした。感情がいっぱいで埋め尽くされているのに、優しくて……。」
「ありがとう。きっとあの曲は……世には出ない。でも、いつか叶えたい。あなたのような人が一人でもいるのならばまたボクは歌う。すべての人を笑顔にする、途方もない夢を叶えるために。あなたはまっすぐ生きて、自分の正義を信じて。ボクはあなたを見てる、どこにいても。」
振り返った彼女は、私を淋しそうに見ていた。それさえもキレイだった……。
━━彼女はその日を境に姿を消した。そう、あのライブは、彼女の━━ヒメ率いる『Mistic Dolls』の、バンド解散ライブだったんだ━━
私は振り返らなかった。どこからでも、見ていてもらえるように。彼女は歌を再開する準備をしているって信じてるから。
『世にでない』と言っていた曲は、解散後に公式サイトも消したらしく、とある掲示板であり得ないレベルで批判されていた。『あんな曲は、非常識』『バンドの色に合わない』『あのボーカルはやっぱりダメだった』『Goddessじゃなきゃ、ダメだった』。
信じなきゃ私だけは信じる。あの曲がヒメの心を著しているなら、尚更。
一度だけ、デビュー前に似た歌声のアイドルがいた。デビューを決めた年に彼女は引退してしまった。
私は彼女の意思を継いだわけじゃない、きっかけに過ぎなかった。感銘し、同じ志しを自分らしく叶えていく。
……帰り際に、私の手に握らせてくれたもの。それが私に力をくれていた。
◇◆◇◆◇◆◇
私は10姉妹の末妹。 母は私を生むと同時に息を引き取ったらしい。その半年後、父も事故で亡くなったという。
だから、私は両親との思い出はない。私のせいで二人は亡くなったんじゃないかと思うときもなかったわけじゃない。けれど、姉たちが口を揃えていってくれたの。
「男の子が欲しくて頑張り続けたみたいだけど、お母さんとお父さんは生まれてくるたびに『幸せにしなきゃ』って言ってた。結愛、あなたのときは託されたの。『この子をお願い、代わりに幸せにして』って。」
だから私たちは仲が良い。一人一人かなり個性的に育ったけれど。
そう、アイドルは生活のためでもある。9人の姉たちが私を応援してくれている。凌ぎを削りながら。アイドルは夢であり、生計のためでもある。
『雪野結愛、アイドルで生計立ててます☆』
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