カクヨムで読了した作品を語る。

AranK

読了:横浜駅SF 作:イスカリオテの湯葉

この物語の舞台は、横浜駅が増殖し、日本全土を覆ってしまった世界である。

なぜ横浜駅?いやそもそも増殖ってなに?この時点で、まったくの意味不明である。

だが、駅という比較的身近なものだったからこそ「読んでみよう」とそう思ってしまった。

そして面白かった。一過性のキャッチ―さに留まらなかったし、読んでいて飽きなかった。


駅という空間は、一つの別世界に思える魅力がある。

コツコツと響く床、必要最小限のスペースに、ぎっしりと販売品を詰めた売店。自動販売機。

そして、切符一枚でこちらとあちらを隔てる自動改札。

目的地に向かうのだという意思と、公共施設であるという立ち位置も、ほどよい緊張感を持たせてくれるのだと思う。


ほどよい距離感の異物。とでも言うべきだろうか。

そうした異物によって支配された世界。動き回る自動改札が秩序を保ち、エレベーターやキオスクが樹木のように「生えてくる」

身近な存在で、奇妙な異世界を作り上げるという発想と手腕。なんとも言い難い好奇心からなのか、どんどんと読み進めてしまう。

ポッと出た突飛な発想と、それらが有している性質を、さも当然の常識であるかのように描写していく。

まるで奇妙な動物の生態を、間近で見て教えられているかのような。


話をもどそう。

駅が増殖する世界。そこで住む人々。それらを眺めるのはアウトサイダー的な存在である主人公だ。

そのことが、一歩引いた目線で、上記の「生態」を見せてくれる。

それ故になのだろうか。人間的な、血の通ったドラマ性というものは控え目だったように思う。

刺激されるのは、もっぱら奇妙な発想が織りなす知的好奇心だったと、読み終えた今思い返している。


作者のぶっ飛んだ発想と、それが出落ちにとどまらない奇妙な説得力。

この二つが最大の魅力であり、面白かった!と言える理由だと私は分析する。

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