4話 パーティーに誘うには 1
異世界生活六日目。
きゅーちゃんが助けたあのプリーストなお嬢様を仲間に誘って玉砕してからはや二日。 その間私は彼女を仲間に誘うことを全く諦めていませんでした。
何故なら、その時に見たとおり、回復魔法はダメージだけではなく体力も回復できるもののようで、きゅーちゃんの攻撃力を維持するためにプリーストの力が必要だからです。
そして、あの金髪ツンデレお嬢様という高スペックな人材を入れることで我がパーティーをより華やかにしたいのです!
「そんなわけで、昨日一日中あのお嬢様の事をつけてたんだけどね」
「人が筋肉痛で寝込んでいる時にそんなことしてたのか君は」
向かいの席に座る一昨日ぶりに会うきゅーちゃんが、仮面越しにドン引いた目で見ているのが解りました。 あぅん、お姉さん悲しい……。
今日は早めに集まり、きゅーちゃんと一緒に若干遅めの朝ごはんを頂く事に。 注文は既にし、今は待っているところです。
ちなみに何故昨日は会わなかったのかと言うと、いや会ってはいたのですが、待ち合わせ時間になっても来なかったので、きゅーちゃんが泊まっているらしき宿へ行ってみると、息を荒くし、辛そうな顔をした寝巻き姿のきゅーちゃんが部屋から出て来たので、具合が悪いのかと心配したら、
「きょ……今日はゴメン。 昨日の、特訓んあっ……の、影響で、身体が……あぅっ……う、うごかなっ……く、て…………」
などという、貧弱もやしっ子極まった事を抜かしていたので、昨日はここに集まらなかったというわけです。
だから、私一人であのお嬢様の情報を頑張って集めていたのに、酷くないですかこの態度!
「何言ってんの、きゅーちゃんのためにやってるんじゃない! きゅーちゃんだってあのお嬢様には仲間になって欲しいでしょ?」
「……まぁ、なって欲しいけど……わかったよ、引いてゴメン」
私が口を尖らせて言うと、やっぱりきゅーちゃんもあのお嬢様が仲間になるのは賛成なようで、か細い声で謝ってくれます。 うんうん。 素直に謝れるきゅーちゃんは偉い子ですね!
きゅーちゃんはそのまま「それで」と続けます。
「収穫的にはどうだったの?」
「あぁうん、それなんだけど」
私は昨日の事について話し始めます。
「まず、お嬢様が多分またクエストの続き行くと思ったから、城門近くで待機してたのね」
「あぁ、ジャイアント・トード討伐の続きか」
「そそ。 実際に三日以内に~のクエストを受けているかは賭けだったけど、運よくお嬢様が城門を抜けていってたよ」
ちなみにその時門番のおじさんがお嬢様のおっぱいをチラチラと見ていましたが、あんな人が門番でこの街は大丈夫なんでしょうか。
「そんで、またあのお嬢様がカエルに食べられかけてね」
「おい学習能力無さ過ぎでしょ。 なにしてんだ」
それは私も思った。あれほどデジャビュを感じることもそうそうないと思う。
しかもあのお嬢様、なんと真正面から向かって行くという猪突猛進っぷりでした。 あなた後衛職でしょうに……。
メイスをカエルのお腹に叩きつけ、しかし吸収力の高い身体を持つカエルには効かず、そのまま昨日と全く同じ図になっていたわけです。
「で、助けたの?」
「助けたよー。 ぶっちゃけるともうちょっとあの怯えた姿を見ていたかったけど、目の前で仲間が食べられるのなんて見たくなかったしね」
「うん、だいぶ酷い事が聞こえたうえにまだ仲間になってないのに仲間って言い切ったのにちょっと驚いたんだけどまぁいいや。 それで?」
私は料理より先に運ばれたコーヒーを軽く口にすることで一拍置いて、
「うん。 でも怒られるのは嫌だったから、離れた所から投剣スキル使って倒したのね。 そしたらあのお嬢様、思いっきり自分が倒したんだと勘違いしててね! その喜びようったら……ぷふっ!もう可愛くって面白くって、もう……笑いこらえるのが大変だったよ!」
「それギルドに戻って報告したら実は倒していませんでしたっていうパターンだよね? 本人が倒さなきゃカードに記録残らないんだし。 嬉々として報告した後に赤っ恥食らって顔真っ赤にする姿が目に浮かぶんだけど……」
「お、凄い! よく解ったね!」
「可哀想に……」
お嬢様を思って気の毒そうに言うきゅーちゃん。 実際私も助けたとはいえちょっと申し訳ない気持ちも湧いてはいたんですけど、カエルの頭にナイフぶっ刺さってんのに気付かないのも結構お間抜けな話だと思うんですけどね。 まぁそれも可愛かったんですけど!
「というか、投剣スキルなんていつの間に取ったの?」
「ん? ああ、ホラ、短剣が使えるといっても、私基本的に後衛職じゃない? だから前線に出なくても、後ろからないし離れて攻撃できるスキルがあったほうがいいと思ってさ。 一昨日別れた後、スキル取得のやり方受付のお姉さんに教えてもらって、取ってみたの」
「へぇー」
威力的にはどんなもんかと思いましたが、カエル相手でも脳天に当てられれば倒せることも判明したので、十分ですね。 短剣スキルも、取得した直後は実感が湧きませんでしたが、いざ短剣を振ってみると、自分でもスイングが速く、鋭くなっているのがわかりました。 取得しただけでここまで様変わりするとは思いませんでした……凄いですねスキルって。
ちなみに今の私のレベルは3。 スキルポイントは7ポイントだったのですが、短剣と投剣スキルに1ポイントずつ使ったので、残りは5ポイントです。
ん? スキルの取り方?まぁ、それはおいおいとして……。
「それで? その後はどうしたの?」
「お嬢様がとぼとぼ帰るのを尻目に私がカエル討伐分の報酬貰った後も尾行してたよ。 宿ないし家の場所も知りたかったしね。 …………どしたのきゅーちゃん頭抱えて」
頭でも痛いんでしょうか? 風邪とかだったら大変です。 しかしきゅーちゃんは、頭に添えてない方の手で私を制しました。
「……なんでもない。 いやなんでもなくは無いけど、気にしないで」
「そう? まぁでもそこで終わりなんだけどね」
「え? その娘の家まで行ったんじゃないの?」
私が事の顛末まで言い終えると。 きゅーちゃんは首を傾げます。
「いやね、後追って行っている途中で燕尾服着たやたらダンディーなおじさんに出くわしてね、『当家のお嬢様に何か御用でしょうか?』って追い払われちゃった。 あれって絶対執事だよね! 私初めて見たよ!」
「執事って、それ明らかに凄い身分の人だったって事じゃん! ちょっと、気をつけなよ。 貴族を悪く言うつもりは無いけど、気分を害しただけで極刑に処そうとする人もいるんだからね」
「う……そうだよね……はい、気を付けます……」
貴族の恐ろしさをちらつかされた私は、素直に受け入れ小さくなります。
未だに実感が湧いていないんですけど、そういえば私一度死んでいるんですよね……。 若いうちに2回も死にたくないですし、今後はもうちょっと慎重に行きましょう。
「ん。 じゃあ纏めると…………いや纏めてもこれ得た情報って無くない? 貴族のお嬢様だなんて、あの髪と目の色見ればわかるし」
「へ~、貴族って皆金髪碧眼なんだ!」
「後から実績上げて爵位持ったりする人もいるから、流石に皆が皆ってわけじゃないけど、金色の髪と碧い目は貴族の証拠だよ。 ……割と常識だと思うんだけど……知らなかったの?」
「え!? ……あ、あぁうん! や、実は私かなり遠くの田舎村出身でさ! そういう事あんまり詳しくないんだよねー! あ、でもあれだね、やっぱり金髪碧眼って、貴族キャラのお決まりなんだね! やー、これで一つ賢くなった! ありがとうきゅーちゃんっ!」
「う、うん。 どう、いたしまして……?」
慌てて取り繕うように捲したてる私にきゅーちゃんは怪訝そうに首を傾げましたが、それ以上は追求して来なかったので、どうにかごまかせたようです。
……まぁ、本当は誤魔化す必要もないんですけどね。 でもいくらファンタジーなこの世界でも、転生者というのはよりファンタジーで現実味のあるような物ではないでしょう。 どう説明したらいいかもわかりませんし、世間知らずな子扱いされるのはちょっと癪ですが、今後もこういうスタンスで行きましょう。 ある意味間違ってないしね!
「それで、今日はどうするの? まぁなんとなくクエストはしないのは予想できてるけど……またあのお嬢様の後つけるの?」
「お、よく解ったね! 今日が恐らくカエル討伐クエストの最終日だからね! ご飯食べ終わったら城門に行くよ!」
私がそう宣言すると、きゅーちゃん頬杖をついてポツリと言いました。
「……普通に誘えばいいのに」
それが出来たら苦労しません。
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