2話 仲間を作ったからには エピローグ

 アクセルの街に無事帰還し、ギルドへ討伐完了の報告――――と思ったのですが、カエルに追い回されたせいで走り回って汗をかいたので、その前に汗を流すためにこの街の大衆浴場に向かう事にしました。


「おっふろだ~!」

「娘よ。 何故ギルドの報告を先にしないのだ。 報告をしてからゆっくり風呂に入るでも良かろう」


 きゅーちゃんが訝しげにそう私に言ってきます。 

 何を言っているのでしょうかこのお子様は。 私は解ってないこのこの子のために説明をしてあげます。


「良い、きゅーちゃん? 古今東西南北女の子はお風呂が好きな生き物なの。 それに汗臭いまま街を歩きたくなんてないし今日の疲れを癒してトラウマの事を忘れたいし、きゅーちゃんもまずは疲れを癒したいでしょ?」

「……別に疲れてなんてないし」

「はいはい。 じゃ、行こうか!」

「うぬ。 ではまた後程」

「はいはーい」


 きゅーちゃんと別れ、料金を払い、脱衣所でセーラー服を脱いで、浴場でシャワーを浴びながら石鹸で身体の汚れを落とし、タオルは桶と一緒に一旦その場に置いておいて、私は大きな湯船に浸かりながら息を吐いて一言。


「きゅーちゃんって男の子だったんだ……」

「聞こえてるからな!」


 大きな壁の向こう側――男湯からきゅーちゃんのそんな声が聞こえました。

 無駄に地獄耳だなぁきゅーちゃん。

 だって仕方がないじゃないですか。 お子様ゆえに小っちゃいとは言え、マントを羽織っているから体格は解り難いし、お顔は滅茶苦茶可愛いとはいえそれでも中性的で、本当に判別し辛かったんですから! まぁ、別に男の子であろうと女の子であろうと、きゅーちゃんは私の頼りになる仲間です。 気にする事はないでしょう。


「お、おいなんだよ……気まずそうに目を逸らすな! 逆にガン見もするな! 普通に男だから! 見りゃ分かるでしょ! ~~~~~~っ! 普通にしてろよもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 ……頼りになるはずの仲間から何とも情けない悲鳴が聞こえました。

 人がせっかく良い気分に浸ってるというのにまったくもう!


「きゅーちゃーん! あんまり大声だしちゃダメですよー。 他の人の迷惑ですからー」


 「迷惑被ってんのはこっちだし!」というきゅーちゃんの抗議を聞き流しながら、私は湯船により深く、肩まで浸かります。 やっぱり温かいお風呂と言うのはいいですねぇ……。 この世界に来てこういう銭湯的な所があると聞いた時は感激しました。 ファンタジー系のゲームだとお風呂って中々描写されないし、あったとしても温泉の名所にしかない印象だったので、お風呂事情ってどうなんだろうなあって思ってたんですよねぇ。 もとの世界と比べてちょっと割高ではありますが、やはりこれは良いものです、うんうん。


「……おい、何で僕が湯船に入った瞬間皆して入って来るんだよ。 狭いだろ! ていうかアンタとかさっきも入ってたじゃん! いい加減あがれよゆっくりさせてよ疲れてるから休みたいんだよぉ!!!」


 また私の仲間の声というか悲鳴というか嘆きが聞こえました。 疲れていると言う割には叫ぶ元気はあるみたいですね。 心配でしたがよかったよかった。


「…………………………」 


 ふと、私はギルドの受付のお姉さんとの会話を思い出します。 そう、あの受付のお姉さんが言っていた私を上回る新人冒険者の4人。 その最後の一人の事です。


「その方の職業は、『魔剣士』という職業で、全職業の中でも『ソードマスター』に並ぶ、もしくはそれ以上の攻撃力を誇る前衛職です」

「ほえー! それってやっぱりあれですよね! 魔法をドカーン! と撃ちながら、剣で敵をバッサバッサ斬る万能職的な奴ですよね!」

「凄く前衛的な表現ですね…………まぁわかりますが。 えっと、ヒビタさんの仰ってるのは多分『魔法剣士』ですね」

「ほえ? 違うんですか?」

「そうですねぇ……似て非なるという言葉がとても当てはまる二つですよ。 まず、『魔剣士』と『魔法剣士』とでは装備が違います。 魔法剣士は盾を持っての壁役が出来ますが、魔剣士はそもそも盾を持てません。 その分攻撃力は上回り、スピードに関しては段違いとも言えますが、防御力は全職業の中でも下位クラスです』

「なるほど……攻撃は最大の防御なりを地でいく職業と言うことですか」

「はい。 それともう1つ異なる点として、魔法剣士は上級魔法も使えますが、魔剣士は中級魔法止まりです。 その代わり、『暗黒魔法』という禁術が使えるのですが……魔剣士はただでさえ数が少ない上に文献もあまりないので、これについてはよく知らないんです。 ごめんなさい」

「いいえいいえ! とりあえずピーキーな職業って事はわかりましたから! ……それで、その人の事は意識しないでいいってどういう事ですか? 魔剣士って上級職ですよね? それになれるくらいだったら、相当な素養があるって事なんじゃ……」

「えぇ、まぁ……確かに素養は凄かったんですが………………」

「ですが?」

「その…………大きな声で言えないんですけど、その人とんでもない虚弱体質で、体力や防御のパラメーターが凄まじく低く……確かにそれらは魔剣士になるための必須パラメータではないんですが、それ以前に、正直冒険者をやれるような身体じゃなかったんです」


 だから、意識する必要はない。 と言うことだったようです。


「……十中八九、きゅーちゃんの事だろうなぁ」


 事実、クエストを受ける際、お姉さんが驚いたような、心配したような顔をしていたので、ほぼ間違いありません。 あの時私に本当に良いのか? 大丈夫か? と言うような目線を向けていた理由がようやく解りました。

 でも、


「それでもきゅーちゃんでいいよね」


 まぁぶっちゃけ問題は色々あります。 前衛職なのに耐久が紙どころかオブラートのレベルで低く、動きすぎるとばてるなんて欠陥を持っています。 ですが実力そのものは非常に高く、やる気はすごくあるように思えました。 それに何より、目の前の敵に背を向けてでも私を助けに来てくれました。

 そんな人に、他を当たってくれだなんてとても言えませんし、そもそも駆け出しの私はそんな事言える立場じゃありません。 初めての仲間としてはかなり良い方だと思いますしね! それに、弱点を補い合うのが仲間です! 私もきゅーちゃんを助けられるように頑張りましょう!!


「ふぃ~………………」


 …………そろそろシャワー浴びようかな。

 私は男湯の方から聞こえる喧騒をBGMにしながらシャワー浴びてお風呂場を出ました。

 あ、そうだ! お風呂上りにきゅーちゃんと牛乳でも飲みましょう! この銭湯の前で販売している牛乳が美味いんだ♪

 着替えながらそんな事を思いついた私は早速売店で牛乳を2本買い、騒いだせいで私より少し遅れて出てきたきゅーちゃんに1本渡します!


「はい、私の奢り! 初めての仲間と初のクエストの達成のお祝い!」

「……ごめん、僕牛乳はお腹壊しちゃうんだ」


 やっぱり改めて仲間を探そうかなと、少しだけ思いました。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 お風呂に入ってさっぱりした私ときゅーちゃんはギルドへ。

 きゅーちゃんはろくに休めなかったからと、ギルドカードを私に預けてフラフラと酒場の方へ行き、私は受付にクエスト完了の報告をしに行きます。


 受付にいたのはいつものお姉さんでした。 お姉さんは私の顔を見るやいなや、目を丸くし、


「っ! ヒビタさん! おかえりなさい。 初のクエストはどうでしたか?」

「ばっちしです! クエスト完了の確認お願いします!」

「本当ですか!? かしこまりました! それでは確認致しますので、カードの提示をお願い致します」


 そう言われた私は、お姉さんに自分ときゅーちゃんのギルドカードを手渡します。

 お姉さんはカード受け取ると、あのギルドカードを作成した機械を使って何かを確認し始めました。

 なるほど。 報告は口頭だったので、これ不正な深刻とかする人もいるんじゃないかな? と思いましたが、どうやらギルドカードに『誰が何をどれだけ倒したか』というのが情報として残されているようです。 つまり、それをあの機械を使って照合している、と言ったところでしょうか。


「はい、確かに。 【ジャイアントトードを三日以内に五匹討伐】のクエストの完了を確認致しました。 カードはお返ししますね。 それと、ジャイアントトードを倒した経験値でレベルが上がっていますので、確認してみてくださいね」


 確認を終えたお姉さんからカードを受け取り、言われた通りに更新された(正確にはカエル倒した時点でされていた)らしいカードの内容を確認してみます。 すると、レベルの欄に『2』、スキルポイントの欄に『6』とありました。

 ほうほう。 つまりカエル一匹を自分で倒した分の経験地が入って、レベル2になったと。 ……ホント、ゲームみたいだなぁ。 一応、生命を奪ったら奪われた者の魂の一部が奪った者に宿るとかそんな感じの理由を登録時に聞きましたが、改めてそう思います。 あんまり強くなった実感とかはありませんが、まぁそれはおいおい感じてくるのでしょう。

 

「では、此方が報酬となります。 ジャイアントトード五匹の買い取りとクエストの達成報酬を合わせまして、12万5千エリスとなります。 ご確認ください」

「ありがとうございます!」


 トレイに乗せられて差し出された報酬をお礼を言って受け取ります。

 12万5000かー。

 あのクエストの報酬が10万エリス。 カエル一匹の引取りが送料を差し引いて5千エリス×5。 金額だけを見れば多い気がしますが、これを二人で分けると6万2千500エリス。 日当としては多い額に見えますが、命がけでやった仕事にしてはいささか少ないように思えます。

 ちなみに何で討伐したカエルをギルドが引き取るのかと言うと、これはクエスト受注の際に聞いたのですが、あのカエルはなんとこの酒場で使われる食料になるそうです。 元の世界でもカエルというのはゲテモノに分類されるものの以外にも美味しいと聞いた事がありますが、どうやらこっちの世界では普通に一般的な食料として認められているそうです。

 ……後で注文してみようかな。

 意外に思われるかもしれませんが、私はカエルに対して苦手意識は持っていません。 もとの世界で田舎者だった私としてはポピュラーな生き物で、田んぼとかでよく見かけたりしましたし、小学校の頃は男子と一緒に捕まえて遊んだりしていたものです。 食べる事に対してもこれといって拒絶的な意識は持っていません。 

 ………………まぁ、カエルに犯されそうになったのはトラウマものだったけど。


「……本当に、上手くやれたそうでよかったです」


 ぽつり、とお姉さんはそんなことを呟きました。 何の事を指して言っているのかはすぐに理解できました。


「やっぱり、4人目はきゅーちゃんの事だったんですね」

「はい……。 心配でしたが、仲間になってくれる人がいて良かったですし。 何とかやっていけそうで安心しました」

「まぁ確かに何とかって感じではありますね……強いけどびっくりするほど体力ないし、すぐむくれるし、いじっぱりですし、人のお礼を無江にするお子ちゃまですけど…………」

「けど?」


 きょとんとするお姉さんに、私は自信満々に言います。


「意外と頼りになるんですよ、私の仲間は!」


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