おむすびゴッド

彘芭樂 伯斎

プロローグ

『冗長借用の余地が無し』

「ぬうぉっ・・」


山頂の轟音と稲光を目指しクロケットは14里ほどを半刻で走り切った。


「父上!」

クロケットが駆けつけると全身ズタボロのゼペットが満身創痍の体で血だまりに転がっていた。


タダ事ではない事態を予備なく受けているわけではない。事前にゼペットに言伝を賜った。【我生涯の仇をみつけたり、死地に赴く故手出しは無用】と。だが状況はクロケットを強く動揺させ焦らせる。

眼下には最愛の父が崩れ落ち、見上げると怪物が巨躯の高みから見下ろしてくるのだ。何よりも。

人も妖も等しく強者を打ち負かしてきた真の武人である父がこんな姿を晒すとは未だに信じられない。



『乞食のゼペット・・・いや異世界の流民ヒデカズよ。貴様は何故亡国の王の名を騙る』

怪物は人ではないその造形で寒気がするほど凄みがある顔をする。


「貴様が俺に聞くか・・・・夢枕の亡霊めが・・・貴様を滅ぼさぬ限り俺の悪夢は晴れぬ」

『愚かなり。禁忌の王を語る貴様こそ夢に縋る亡霊ではないか』


「・・・我が主君ザジオンは俺の全てだ。いや、俺こそがザジオン・・・あの厄災を生き延びたのだ!そうでなくてはならぬ!」

『天罰を厄災と曲解するか不届き者め。愚王は国とともに滅びた。私が確認したのだ』

「語り続ければ誰もが忘れることはない。忘れなければ亡くならないのを俺は知っている!」


勇ましい父の声を聞き安堵の表情でクロケットは父の前に傅いた

「父上・・これに」

虫の息だったはずのザジオンがクロケットの肩を借りヒョイと立ち上がる。


父ザジオンは文字通り不死身のもののふである。血だまりはいつの間にか消え、致命傷のようだったザジオンの傷も完全に癒えていた。


「クロケット。来てしまったのか大バカモノめ」

「我が命父の忠ならんと欲すれば」

「っ・・・・・・・ならばよし」


クロケットとザジオンは雁行の陣立てで怪物を見据えた。



『ボーンハイドの不死法・・・・螺旋獣コンジラを狩ったのはお前か・・・愚か者め。アヤツの邪法は私の理から外れる・・・魂も輪廻に戻れぬぞ』


「カカカこれで一矢報いれるならば」


『・・・不死とは肉を持ち不滅というだけなのだがな・・・・』



「・・・な・・に?」

『死も不死も人の理と知れ』


白色の強い光とともに贖うことさえ叶わない衝撃がザジオンとクロケットの眼前に広がった。

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