11回目の魔法
飛竜
病室でおじいちゃんが話をしたがった
おじいちゃんのエイプリルフール
「おじいちゃんは魔法使いなんだ。」
そう言われて驚かない中学生なんてほとんどいないだろう。事実僕も驚いた。でも、おじいちゃんが魔法使いだったということに驚いた訳ではない。
急に何を言い出すんだ。おじいちゃんはそういう常識を超えたことを言う人じゃないだろう?
そう思った。いくら今日がエイプリルフールだからって、そんな嘘で騙される僕じゃない。きっと今どきは小学校低学年でも信じないだろう。夢を見る人々はこの世界から徐々に減っているのだ。
「信じないのはわかっているよ。それでも、年寄りが最期にエイプリルフールに参加したがっただけだ、とでも思って聞いてほしい。」
嘘を言うと前置きしているわりには、おじいちゃんはしっかりと僕を見据え、その目は反抗期の少年のようだった。体は衰えても、おじいちゃんの眼力の強さは今も昔も変わらない。なんだか僕は安心した。
***
おじいちゃんは心臓の病が発見され、一週間前に家から電車で30分ほどの大きな大学病院に入院することになった。おじいちゃんは入院を最後まで嫌がった。
「自分が建てた家で静かに人生を終えたい。」
そういうような言い分はよく聞くし、自分の意見をめったに主張しないおじいちゃんの望みを叶えてあげたい。だが、弱りきって干からびてしまいそうなほど潤いのない声で言われると、怖かった。触れたら今にも崩れて砂になってしまいそうだと思った。そう感じたのは僕だけではなかったようで、僕の親によって半ば強制的に入院が決まった。あんなに反対していたおじいちゃんも、残念そうに眉毛を下げたものの、最後はおとなしく病室の白いベッドに入った。
「家に未練はあるけれど、家族に迷惑をかけてしまうからな。」
そういって歯を見せて笑い顔になったおじいちゃんは、生成色のベッドに埋もれてしまいそうなほど白くて小さかった。消毒の匂いや色のない病室が清潔過ぎて、僕は場違いなのではないかとそわそわした。生活感がまるでなかった。何も無い部屋に一人ぼっちでいるようだった。
***
「わかった、聞くよ。」
僕が子どもを
「まず、おじいちゃんが8歳だった頃の話からだな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます