静寂のディザイア外伝 転生サーキュレーション

初音MkIII

第1話 妹が殺され、全てが始まった


 若き自衛官、神宮カイトには、とても可愛い妹がいる。寮で仲間たちに妹の写メを見せびらかしては自慢し、そのあまりの可愛さに羨ましがられる程だ。


「ふっふ~ん。よ~し、今回はアウトレットにでも連れて行ってやるか!」


 鼻歌を歌いながら、実家へと車を走らせる男。彼こそが、件の神宮カイトその人である。鍛え上げられた肉体に、そこそこ整った容姿、自衛官らしく、すぱっと短い、黒い髪。

 訓練は厳しいし、辞めていった仲間たちもかなり多い。だが、カイトにとって、そして、カイトの家族たちにとって、“自衛官”である彼は、誇りであり、自慢だ。故に、辞める気はさらさらなかった。


「よし、到着っと」


 白い一軒家に車を止め、エンジンを切る。そして、荷物を持ち、軽い足取りで中へと入っていった。

 帰還を知らせるため、近所迷惑にならない程度の声を、家中に響き渡らせる。


「ただいま~」


 ガタガタガタン! 金曜日の夜、大抵この日に彼が帰ってくるため、家族は全員集合している。最愛の妹も、兄の帰還を待ちわびていたことだろう。それを証明するかのように、人影が一つ、凄まじい速度で階段を駆け下り、カイトの胸に飛び込んできた。


「お兄ちゃん、おかえりっ!」

「おう、ただいま。イブ、元気にしてたか?」

「うん! ささ、上がって上がって~」

「はは、俺んちなんだけどな……」


 華の女子高生、神宮イブ。アイドルも恥じらうほどの美貌を持ち、グラドルに匹敵するほどのスタイルを誇る、神宮家の宝だ。ただ、趣味はコスプレをする事であり、所謂コスプレイヤーと言うヤツなのだが。


「おう、カイト。今週も無事に帰ってきたか」

「ご飯、できていますよ。今日はあなたの好きな焼き肉にしておいたわ」

「父さん、母さん、ただいま。そっか、焼き肉か! 食うぞ~!」

「あ、お兄ちゃん! あたしも食べるんだからね! 一人で全部吸い込まないでよ?」

「いくらなんでもそんなには食わねえよ」


 両親が笑顔で迎え入れ、特等席に座るカイト。その向かいにイブが座り、神宮家の楽しい晩餐が始まる。

 が、その前に。


「お、ニーナ。元気にしてたか~?」

「わんっ!」


 神宮家のペットである、ゴールデンレトリーバーのニーナが、夢の世界から帰還した。尻尾をフル回転させ、喜びを隠さない彼女の姿に、思わず頬をゆるませるカイト。


「そんじゃ、いただきます!」




 その夜、両親が寝静まり、自分の部屋で寛いでいたカイトだったが、ノックの音が二回響いた。


「お兄ちゃ~ん、入るよ~」

「おう」


 イブの声だ。まぁ、彼女以外あり得ないのだが。軽く返事をし、ドアが開く。


「じゃ~ん。みてみて、新衣装!」

「お~、似合ってる似合ってる。ニーナもそう思うだろ?」

「わふ?」

「あはは、ニーナったら、首傾げちゃって。かわいいなぁ~」


 カイトはあまりアニメを見ない。なので、妹がどんなキャラクターのコスプレをしているのかはわからないが、それでも、とても可愛いと言うことはわかる。思わず写メを撮るほどに。

 隣に腰掛け、兄との会話を楽しむ妹。一緒についてきたペットは、尻尾を振りながらその光景を眺めていた。


「イブ、明後日休みだろ?」

「うん!」

「じゃ、出かけるか」

「おや、デートのお誘いかな?」

「デートて。まぁ、普通の服でも買ってやろうかなと」

「ほんと? たくさんねだっちゃうよ?」

「ドンと来い! あ、でも破産しない程度で……」

「やった~! ありがとう、お兄ちゃん!」


 神宮兄妹は、とても仲が良い。街を歩いていると、あまりの仲睦まじさに、カップルと間違えられる程だ。しかし、カイトもイブも、その時間が何よりも楽しかった。


「一緒に寝ていい?」

「それはダメだろ」

「むう、ケチ!」

「ケチじゃない。あ、ニーナは俺と寝ような」

「わふっ!」

「ニーナに負けたっ!?」


 いずれ、妹も素敵な男性と出会い、恋に落ち、やがて結婚するのだろう。やがて来るその日までは、ずっとこうして過ごすのだ。

 カイトも、イブも、両親も、そう信じていた。



 翌日、イブが通っている高校では、土曜日も短いながら授業があるため、朝に家を出る。カイトは実家に帰ったときはいつも、わざわざ早起きをし、彼女を送り出す。


「行ってきま~す!」

「おう、行ってらっしゃい。あまり寄り道するなよ~」

「わかってるって~。じゃあね~」



 それが、神宮兄妹の、地球における最期の会話だった。



「……え?」


 その日、神宮イブは帰らぬ人となった。

 何者かに刺殺されたのである。



 現場には、“磔にされた女神”が彫り込まれた指輪が、残されていたという。

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