ゴヒャクモジ

希片 さんづい

01.トウブンニンゲン



私は認識されない。


誰からも。悲しいことに、面白いことに周りの人間から私は目視されていないみたい。見えていないらしい。

要は"透明人間"ってことさ。


透明人間として面白おかしく過ごしていた私だったけれど、ある日異変が起きた。

初めて透明であることを恨めしく思った。

ああ、私が透明じゃない人間ならどれだけいいだろう!

あの人の一番になれるかもしれないのに!!あの子達なんか近づかせないのに!!

そんな甘い淡い思いを透明な心に隠して見せて、私は彼の側で誰にも気づかれずに視線を送ってみる。送られている彼はきっと私なんて存在すら気づいてないんでしょうけど。

そっと目を閉じて誰にも気づかれずに一番近くの彼の耳元に顔を寄せ、小さな声で思いを呟いてみた。

「××」

するとどうだろう。

私の身体は先の方からちょっとずつちょっとずつ溶け出していく。なんていうか少しだけ怖くなった。

でも大丈夫。

それでもまだ人のナリをしている。当分人間でいるみたい。当分人間のままみたい。まだまだ人でいれたらなあ…。あと少しだけでいいから。できたらそれまでにあなたに見られたい。一度でいいから触れられたい。


そんな透明で当分は人間でいたい私です。

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