阿子と真澄

「阿子、お前も来てたのか」

「まあ夏も終わりということで、友達と二人で来てますよ。綴のことも誘うとは思ったんですけど、約束もしてないし突然は迷惑だと思って。でもまさか、こんなところで出会うとは思ってもみませんでしたよ」


 あの日以来、阿子とは連絡を取り合っているものの、一緒に会うことはしていない。例の件のこともあるし、なんだか気軽に会えるような雰囲気でもなかったからだ。

 阿子もこう言ってはいるが、内心では迷いもあったんだと思う。あんなことしちゃったもんな。


「綴は……真澄のお守りですか?」

「まあ」

「違う。デート」


 そうだよ、と肯定しそうになったところに、真澄が言葉を被せてくる。


「こう言ってますが?」

「真澄」

「デートだもん」


 腕に抱きついて離れようとはしなかった。こうなるとテコでも動かないので、ため息をはきつつも「だそうだ」と阿子に返す。


「それはまた羨ましい」

「……」


 阿子の目が笑ってない。そして真澄の表情が少しだけ曇ったように感じる。


「まあ、今日のところは友達がいるのでご一緒はできません」


 あからさまに安堵の息を溢した真澄。阿子はおっちゃんから焼きそばを二つもらうと、わざわざ俺の横に来て「次は一緒に来ましょうね?」と、頬に唇を触れさせる。

 それを見た真澄の方からただならぬオーラを感じる。珍しくガチで怒ってる。

 俺は唇の感触を楽しむ余裕もなく、「真澄、落ち着け」と宥めた。


「そいじゃあ私はここで。真澄も、またね」


 嵐のように過ぎ去った阿子。わずか1~2分たらずだったが、相当疲れた。


「私。あの人嫌い」

「……珍しいな。真澄がそこまで敵意むき出しなの」


 おっちゃんから焼きそばを受け取りながら、真澄はふて腐れたように頬を膨らます。


「なにか理由でもあるのか?」

「今の!」

「えっ?」

「お兄ちゃんはもう少し考えた方がいいよ!」


 怒りモードになった真澄は、ぷんすか怒りながら、けれども腕から離れようとはしなかった。


 いったいなんなんだ?


 本当に、この1~2分でなんでそこまで怒り心頭なのか。考えても真澄にそこまで実害があった訳でもないので、俺は阿子にキスされた頬を擦りながら「いや……さすがにな」と声を溢した。

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