おバカな妹と気だるい兄

田中さんにとっての鈴木

　私が……鈴木さんを異性として？

　由美さんの質問の意図を読み取れず、首をかしげる。

「どうしてそんなことを？」

「どうしてって言われても……今の話しからすると、田中さんは鈴木君のことが好きだとしか思えないよ？」

「私が鈴木さんを？　御冗談ですよね？」

「冗談じゃないんだけど……目が怖いよ？」

「……失礼しました」

　自分の眉間を皺を撫でてほぐす。そんな恐い目付きしてましたかね？　綴さんじゃあるまいし。

「それで……鈴木さんでしたっけ？」

「鈴木君だね」

「このさいはっきりと言いますが」

「うん」

「私は別に鈴木さんのことは何とも思っていません」

「……そうなの？　本当に？」

「くどいですよ。本当です」

　だってあんな変態、好きにある方が可笑しいでしょう。そりゃあよく周りを見てるし、優しいところもありますが、よく人のことをおちょくるし、からかったりしますし、それに二次元大好きだし。どちらかと言えば気持ち悪い方が先に来る人です。そんな人を好きになるなんて、天地が引っくり返ってもありえないでしょう。

　それに私は真澄が好きなんです。それなのに、あの人を好きになる理由がない。一時期気になってはいたけど、あれは一過性の気の迷いということもこないだきちんと証明しましたし。だからありえない。

「じゃあ……どうしてそこまで気にしてるの？」

「気にしてる……？　私が？」

「うん。その女性と、どうなってしまうのかを気にしてるように見える。でもそれって、鈴木君のことを意識してないと考えないことなんじゃないかな？」

「それは……」

　確かに私は、あの人とあの女性がどのような関係なのかを気にしている。けれどそれは、二次元を愛しているはずのあの人が、現実の女の人を好いているのが気になっているだけで、けして私が意識しているからではない。そう、そうこれは。

「これは所謂、観察です！」

「観察!?」

「未確認生命体の生態を調査しているにすぎません！　そういうことです！　私があの人に好意を寄せているなど、絶対にありえません！」

「いつの間にか鈴木君が宇宙人認定になってる……」

「いいですか由美さん！」

「はい」

「私は研究対象としてあの人を見ているにすぎません。そういう感じの興味です！　いいですか？　興味です！」

　言い寄りながらそう強く念推すと、さすがの由美さんも私の気持ちがわかってくれたようで、「わかったから、わかったから座ろ？」と引き攣った笑顔で納得した。

　まったく由美さんは。なんでもかんでも恋愛につなげればいいってものじゃないんですよ？　それに私は真澄のことをこの上なく愛しているんです。それなのに、浮気なんて絶対するもんですか。ただし、あの人が人並に恋愛ができるのか、それには少し興味があります。今度が少し、探りをいれてもいいかもしれませんね。

　～～～

　喫茶店で田中さんと別れた私は、大きな脱力感に見舞われていた。結局押し切られる形で頷いてしまったが、あの反応を見るに、少なからず意識はしているのだろう。ただそれが、自分の中で恋愛に発展していないに過ぎない。そしてそれは結局のところ、恋愛感情ではない。

　きっと田中さんの中で、鈴木君の何かに引っかかりがあるのだろう。でなければ、私に連絡をいれてくるほど取り乱す訳がないもの。

　ただ理由はどうであれ、「凄んだ表情は一番怖いかも」と、少しだけ思い出して身震いした。