夏休みと言えば

 夏休みと言えば、何を思い付くだろうか。こないだ行った海? それとも花火? 冷やし中華なんてのも思い付くかもしれない。

 けれどそれだけじゃないのが夏休み。特に学生である俺たちは、皆思ったんじゃないだろうか。夏休みと言えば、宿題だと。


 大学の課題を片付けるべく、レポートの資料を図書館に借りに来た。大学内にある図書館で、一般の人も利用できる。思ったより広く、二階まであるこの図書館は、蔵書数が区内でも有数で、マニアックな本も揃っているので利用客も多い。


 俺もその一人だしな。


「お兄ちゃん。これどうかな?」


 ちなみに、俺についてくる形で、真澄も自由研究の課題を決めにやってきた。

 なんでも、本当に自由に議題は決めていいらしく、幅が広すぎて真澄も困っていたらしい。なのでアイディア出しも兼ねて一緒に来たのだ。


「なんだ?」

「料理の本」


 何故に料理本?


「料理の研究するのか?」

「味の変化を科学的に研究して、チョイ足しレシピを発表する」

「なんだそれ。めちゃくちゃ面白そうだな」

「でしょ?」


 表情は変わらないが、わりかし嬉しそうな雰囲気が漂う。


「お兄ちゃんは?」

「アーサー王伝説でも調べようかと」

「実は女だったとか」

「どこのゲームだよ」

「実はエロゲームだったやつ」


 そういえば、初代は18禁だったな。というか、なんでこいつそんなの知ってんだよ。


「それにするのか?」


 真澄は「う~ん……」と唸ってから、「もうちょっと見てくる」と戻っていった。

 面白そうではあったが、思ったより乗り気になれなかった、そんな感じだなあれ。


 俺も本棚に本を戻して、適当にブラつく。

 外国の歴史についての課題だが、議題は自分で決めるとのことなので、歴史資料が多く陳列されてるところを重点的に調べる。


 しても、どれ調べるかな~……有名人多いから調べるのに困ることはないけど、やるなら面白い人がいいよな~。100戦争、ジャンヌ・ダルクか。悪くないかもしれない。


 俺が棚から本を取り出した時、横から「げっ」という声が聞こえた。振り向いてみると、そこには田中さんがいた。


「田中さん?」

「どうして綴さんがここに?」


 彼女の腕には何冊か本が抱えられていて、どれも分厚い本だった。


「調べもの?」

 渋々といった表情で「自由研究の課題です」

「真澄と一緒だな」

「真澄が来てるんですか? さすが真澄。私と同じ考えなんて、相思相愛ですね」


 いったいどこら辺が相思相愛なのか聞いてみたいが、なんか長くなりそうだからいいや。


「何にするの?」

「真澄についてでもよかったんですけど……却下されそうだったので」

「そりゃそうだな」

「今回は仕方ないので、民謡とか童話とかの背景を軸に、本来の意味を調べます」


 童話は、伝わってるものとは多きく異なることもある。例えばシンデレラでは、宝箱を使って叔母だか継母だかを殺してたりな。それを調べるのか。悪くないな。


「いい議題だな」

「まあ、私ですから」


 どこか得意気に鼻を鳴らす田中さん。以外と子供っぽいとこあるよな、この子。


「真澄に会っておきたいところですが、調べものをしてるなら邪魔してはいけませんね。私は大体資料が揃ってるので、先に失礼します。綴さんも頑張ってください」

「ああ、うん。お互いにね」


 田中さんは礼儀正しくお辞儀をすると、そのまま通りすぎて行く。カウンターに本を持っていくんだろう。


 海の一件以来、田中さんが少し丸くなったのは気のせいだろうか? でも鈴木にはまだ当たり強いし、気のせいかもしれないな。


「あっ」


 鈴木と言えば、そういえばあいつ今日シフト入ってんのかな? もしそうだとしたら……。


 そこまで考えて、田中さんも運がないな。と苦笑いした。


 

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