大学生と高校生の差
「いや~ごめんね由美ちゃん。車借りちゃって」
「ううん。別に大丈夫だよ。取り敢えず三日くらいは使わないって言ってたし」
真澄と海に行く予定を立てて三日後。これから郊外の海に向かう。メンバーはいつも通りの、俺、真澄、由美さん、鈴木、田中さん。それに加わる形で、弘樹君という真澄の友達だという男子が一人。
今日は由美さんの店の裏集合で、今いるメンツは俺と鈴木と由美さん。真澄は田中さんと弘樹君という男子を呼びに行っている。
「6人以上の車って、借りるのにも金がね~」
「お姉ちゃんもお兄ちゃんも居なくなってからは、そんなに使うこともなくなったから。丁度良かったよ」
「由美さん、末っ子だったんだ」
「うん」
あまり由美さんの家族事情とかは訊いたことかったから、少し新鮮に感じる。いつもは家の家族事情で迷惑かけてるから、余計そう思うのかもしれない。
「お兄さんとお姉さんは何してんの?」
鈴木がそう尋ねると「お兄ちゃんは都内の方で先生やってて、お姉ちゃんは実はモデルさんなんだ」と嬉しそうに返す。
「「モデル?」」鈴木と二人で一緒に聞き返してしまった。
「あんまり言わないでって言われてるから、内緒ね」
可愛らしく指を唇の前に持って来てはにかむ姿に、何故かこちらが照れてしまった。
「お兄ちゃ~ん」
少し遠くの方から、真澄が手を振りながらこちらに駆けてくる。その後ろからは、なんか言い争いをしてる田中さんと、恐らく弘樹君と思われる男子が一人。
「と~う」
「うぶっ!」
タックルをかます勢いで飛びついて来た。危ないからやめて欲しい。
「真澄?」
「ごめ~ん」
遅れて来た田中さんと弘樹君は、丁寧に俺達に頭を下げる。
「今日はお世話になります」いい笑顔で、田中さんが手に持っている袋を由美さんに渡し、「これ、ご家族でどうぞ。車を貸していただくお礼です」
「ええ! 悪いのそんなの!」
「いいんですよ。これくらいは当たり前のことです」
満点の対応に、普段の様子からは想像もできない淑やかさを感じる。田中さんってこんな人だっけ。
「あの……今日はお世話になります」
弘樹君はもう一度頭を下げ「すみません。手土産もなく……」と申し訳なさそうにした。
「いいよいいよ! 別にこれくらい」
「帰りにでも、ケーキでも買って行きますね」
こちらもこちらでよく出来た子だと思った。う~む……これが真澄の……いや、まだ見極めるのは早い。だがそれよりも前に思ったことがある。
そう、俺達は何も準備していない。車を貸してもらうのも、何か普通に思ってしまっていて、お礼なんてのも言葉だけ。大学生なのに、俺達の方が年上なのに、高校生の二人の方がしっかりしている。
「二人ともしっかりしてんな」鈴木もそう思ったのか、俺に耳打ちをしてくる。
「俺達は今度、大学の方でお礼をしよう」
「了解。美味しい甘味処を調べとく」
「悪い」
「いいってことよ。それより誘うのは任せたぜ、相棒」
「大丈夫だ、問題ない」
二人だけの秘密の会話が終わるころには、二人の由美さんとのやり取りを終わっていた。弘樹君は次に、俺達二人の方に歩み寄り、頭を下げる。
「いつも、真澄さんにはお世話になっております。高橋弘樹です。今日は、お誘いいただきありがとうございます」
想像以上の丁寧さにたじろぎつつも、余裕なフリをして「真澄の兄の、佐藤綴です。いつもうちの真澄がお世話になっています」
「俺は鈴木歩。よろしく」
「よろしくお願いします」
お互いに握手を交わして、聞きたかったことを率直に聞くことにした。
「それで、弘樹君は……うちの真澄とはどういったご関係で?」
弘樹君は、年相応の初心な反応を見せつつ、慌てながらも「あの、その、何て言いますか……まだ友達です!」
……まだ?
「真澄さんは、その……魅力的な方だとは思います。はい」
……魅力的な方?
「えっと……お兄さん?」
「……君に、お義兄さんと言われる筋合いはないよね?」
「あっ……はい」
「ごっめんね~弘樹君! つづりん昨日ちょっと楽しみ過ぎて寝れてないんだよね~。こいつ修学旅行とかの前はいっつもこうでさ~」
「おい海水魚。俺は別に」
「あああ! そうだつづりん! 浮き輪とかあったっけ!? ちょっと確認しようぜ!」
鈴木に強引に弘樹君から引き離された俺。鈴木が車の後ろに連れられ。
「心配なのはわかるけど。お前の顔恐いんだから高校生相手に凄むなよ」
と怒られてしまった。顔に出てたか。
「悪い」
「わかってるからいいけどさ。しかし、彼が例の?」
「ああ。もしもそうなのだとしたら、俺はこの機会を逃す訳にはいかない」
「シスコンここに極まれりって感じだな。まあ彼がどういう人間なのかは、海を通りて見て行こうじゃないの」
「ああ」
俺のこの海の目標は、真澄の男友達が真澄の彼に相応しいかどうかを、見極めることだからな!
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