座席決めは重要だよね

「人数も揃ったことだし、ほんじゃま行きますよ」


 鈴木が号令をかけて、最初に運転席に座る。次席きは由美さんかなと思い、一先ず一番後ろの方に座ろうとしたら、当たり前のように真澄も着いてくる。

 だがそこで問題が起こった。


「待ってください。真澄の隣は私がいいです」


 田中さんが手をあげて進言。しかしとうの本人は「え~」とどこか不満げ。なので俺も、「別に誰がどこでもいいんじゃないか?」助け船を出した。だが田中さんは「わかってませんね」と、眼鏡をかけてないのにクイッと、フレームを指先で押し上げる仕草をする。


「海までのやく2時間ちょっと。これは言うなれば、修学旅行のバスの座席と同じ役割を担っています!」


 なんだそれ。


「皆さん。修学旅行のバスの座席決めって、席替えみたいにドキドキしませんでしたか?」


 その問いに代表して俺が「いやわからん」と答えるが、田中さんは構わず進める。


「広い車内。長い走行時間。どうせなら仲のいい友達や、好きな人の隣になりたいと思いませんでしたか?」

「今時の座席決めってクジなの?」真澄に聞くと「自分達で決めるよ?」と返ってくる。

「綴さん、そこは一旦置いておきましょう! いいですか皆さん。私が何を言いたいかというと。私だって真澄の隣になる権利があるということです」

 

 よくわからない演説が終わり、一同が呆然としているなか、唯一鈴木だけが「ようするに」纏めてくれる。


「つづりんが兄だからって、真澄ちゃんの隣に座るのが当たり前と思ってんじゃねぇ~ぞと」

「そこまでは言ってません! 公平にいきましょうと言ってるんです!」


 結局のところ。真澄と隣に座りたいから、自分達で決めるより他の方法をとろうと、そういうことなんだろう。俺は別にどこでもいいんだけどな。


「んじゃジャンケンして、勝った人から座るところを決めていく。これでいいの?」

 半ば投げやりに返して、田中さんが頷くのを確認してから、鈴木以外で円を作ってジャンケンをする。


 ジャンケン──




「……神は死にました」


 公平なジャンケンの結果。俺が一番後ろの右、その隣に由美さんが座り、俺の前に真澄、その隣を弘樹君が埋める形になった。必然的に、田中さんは鈴木の隣になった。

 由美さんが隣になったのは嬉しい誤算ではあるが、弘樹君が真澄の隣になったのは、痛い結果だと言えよう。


「俺の隣じゃ不満?」

「不満も不満の大不満ですね。なんであなたの隣なんかにならないといけないんでしょうか。あなたの隣なんて肥溜めで充分です」

「はははっ。それはまた随分な言われようだ」


 最前列では二人の不毛なやりとりが始まっているし。


「真澄。お菓子食べる?」

「いいの? ありがと~」


 中列では弘樹君がアクション起こしてるし。


「…………」

「…………」


 俺は俺で変な緊張をしている。真澄と弘樹君のやり取りを確認しないといけないのに、由美さんが気になってしかたがない。


「ほんじゃ、座席も決まったことで、出発しますよ~」


 この座席決め……失敗だったかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る