就寝は魅惑の誘い
「いい加減寝るぞ?」
映画を見終わっての第一声はそれだった。ホラー映画が終わったのは深夜の三時。さすがに目がしばしばとし始めていた。
鈴木はオールする気満々だったのか「え~」と文句を垂れたが、隣で俺にしがみついている由美さんは結構限界だった。エンディングのあたりから、緊張の糸が解けたのか船を漕ぎはじめたのだ。
「由美さん眠そうだし。明日休みだからって夜更かしは駄目だろ。ほら寝るぞ」
「うい~。寝床どうすんの?」
「お前はいつも通り親父の部屋で布団敷け。由美さんは、俺のベット使って貰って、俺はここで寝る」
俺の親父は海外に家を空けていることしかないので、部屋はそのまま誰も使用していない。布団は使われていないが、週に一度は干して毎日掃除はしているので、不衛生ということはない。
鈴木が泊まりに来ると、大抵は親父の部屋で寝て貰っている。鈴木はまあそれでよかったのだが、由美さんが申し訳なさそうに裾を引っ張った。
「悪いよ綴君。私がここで寝るから、綴君は部屋で寝なよ」
そう提案してくれるも、家主として客人をソファで寝かせるのは気が引ける。
まあ本当は親父の部屋には布団が二組あるから、そこで寝て貰うのが一番だと思う。でもそれだと鈴木と由美さんを並べて寝かせることになってしまう。それはなんだか嫌だった。
「大丈夫だよ。ここで寝るのは慣れてるから」
遠慮しないで使ってくれてよかった。だがそれだと由美さんの気が晴れないのだろう。少し俯いてから、甘えてくるように寄り掛かって来る。
普段しないような仕草に、ドキリと心臓が跳ねた。
色々な葛藤が中で起こっているのか、それから少し無言だった。鈴木は一足先に親父の部屋に行ってしまったので、今リビングに居るのは俺と由美さんだけ。
「じゃあ一緒に寝よう」
「……えっ!?」
突如としてそう言った由美さんの顔を見る。真剣そのもので、間違いなどないと言えるほど自信たっぷりだった。
いや駄目だろ。男と女が一つのベットなんて……駄目だろ! 俺達は付き合ってすらいないんだ! 駄目だろ!!
「まだちょっと怖いから、一緒に寝て貰うと……嬉しい」
「……おう」
暗くてよかったかもしれない。絶対耳真っ赤だ。
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