いい所で踏み外すのは王道
「やっほ~由美ちゃん。つづりんと二人っきりのところ悪いけど、そろそろ俺も参戦させて貰うぜ~」
綴君に家に上げて貰った鈴木君は、まるで我が家のようにズカズカとリビングまで入ってきて、ドカリとソファに腰かける。
「一応、いくつかお菓子とお酒買って来たけど、由美ちゃんってもう二十歳越えた?」
「うん。先月で」
「うお。四月だったのか由美ちゃん。こりゃつづりんお祝いにキスの一つでもしてあげた方がいいんじゃない?」
「キ! キス!!」
突然何を言い出してるのこの人!
取り乱す私に、鈴木君はニヤニヤと楽しんでいるようだった。全てわかってて言っている顔だ。
「いや……さすがにそんなことは、したくてもできないだろ?」
綴君を二人してまじまじと見てしまった。鈴木君は普段と少しだけ反応が違う綴君に、「えっ? したいの?」と疑問を投げかける。
「そういう訳じゃないけど」
そういう訳じゃないんだ。ちょっと残念だな。
「俺なんかとしたら、由美さんが可哀そうだろ?」
むしろ凄く嬉しいんですけど!
さすがの鈍感さに、鈴木君は苦笑いをしつつ、すぐさま何かを思いついたのか、悪い顔になる。なんだろう……嫌な予感がする。
「じゃあ由美ちゃんがOKならつづりん的にはキスはOK?」
ちょ!?
「それとこれとはちょっと話が違うというか……」
「別にしたくない訳じゃないんだろ?」
「まあ……由美さんみたいに可愛い人とできるなら、嬉しいけど」
可愛い……可愛い!
可愛いという単語が脳内でリフレインして、顔が真っ赤になる。
可愛いって言われた! 綴君に可愛いって言われた! やだ恥ずかしい! でも嬉しい! なんなのこの感じ、頬がにやけちゃう!!
綴君に女の子としてちゃんと認識されていることが嬉しくて、堪えようと思っても勝手に口角が吊り上ってしまう。頭の中ではいまだに“可愛い”という単語が生き物のように動き回って、私の理性を食い散らかしていく。
不味い。このままじゃ変なこと言いかねない!
「由美ちゃん可愛いもんな。でもつづりんが素直に可愛いって褒めるなんて相当だな。なんだかんだ好きなのか?」
尚も掘り下げていく鈴木君。止めて。これ以上は本当に止めて!
「好きか嫌いかで言われたら、そりゃあ好きだよ。だって……」
だって……?
「真澄の数少ない友達だし」
あっ、一気に感情が冷めていく感じがする。うん。これなら今度も大丈夫かな。
「つづりん。今の流れで真澄ちゃんの話しはしない方がよかったな」
呆れて苦笑いをする鈴木君。綴君は頭を傾げる。
うん、でも。それも含めて綴君だから、私は全然いいけどね。それに……可愛いって言って貰えたし。それだけでもう、嬉しかったから。
なんか……安い女だな。私って。
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